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2025-07-27 15:31:00

「うっかり」「じっとしていられない」は個性?注意欠如・多動症(ADHD)の理解とサポート

「忘れ物が多い」「集中力が続かない」「じっとしているのが苦手」「思ったことをつい口にしてしまう」。

日常生活の中で、このように感じたり、周囲から指摘されたりすることはありませんか? もしかしたら、それは**注意欠如・多動症(ADHD**と呼ばれる発達特性によるものかもしれません。ADHDは、不注意、多動性、衝動性という3つの主要な特性が、年齢不相応に強く現れ、生活に困難を引き起こす状態を指します。

ADHDの特性は、子どもの頃から見られることが多く、学業や友人関係、家庭生活に影響を及ぼすことがあります。また、大人になってから仕事や人間関係で困難を感じ、「もしかして自分はADHDなのでは?」と気づくケースも少なくありません。

この記事では、注意欠如・多動症(ADHD)とは具体的にどのような特性を持つのか、どのように診断され、そして何よりも、ご本人やご家族がどのようなサポートを受けられるのかについて、分かりやすく解説していきます。正しい理解と適切なサポートが、ADHDの特性を持つ方が「自分らしく」社会で能力を発揮し、充実した生活を送るための第一歩となるでしょう。

注意欠如・多動症(ADHD)って、どんな特性があるの?

ADHDの主な特性は、以下の3つの領域に現れますが、一人ひとり特性の現れ方やその強さは大きく異なります。

  1. 不注意(集中することの困難):
    • 集中力の持続が難しい興味のないことや単調な作業に集中し続けるのが苦手です。授業中や会議中にぼーっとしてしまったり、話を聞き逃したりすることがあります。
    • 忘れ物やなくし物が多い大切なものや、やるべきことを忘れがちです。物の置き場所を忘れたり、うっかりなくしたりすることが頻繁にあります。
    • 気が散りやすい周囲の音や動き、頭の中の考えなど、関係ない刺激にすぐに気が散ってしまいます。
    • ミスが多い細かいミスやうっかりミスが多いことがあります。指示を最後まで聞かずに間違えたり、計算間違いをしたりすることがあります。
    • 整理整頓が苦手持ち物や机の上が散らかりやすく、片付けが苦手な場合があります。
  2. 多動性(じっとしていることの困難):
    • そわそわする・落ち着きがない授業中や会議中など、座っているべき場面でも手足を動かしたり、体を揺らしたり、貧乏ゆすりをしたりと、そわそわしてじっとしていられないことがあります。
    • 過剰な動き必要以上に走り回ったり、飛び跳ねたり、高いところに登ったりするなど、活発すぎる行動が見られることがあります。
    • 多弁一方的にしゃべり続けたり、質問されたりしていないのに話したりすることがあります。
  3. 衝動性(待つことや考えることの困難):
    • 衝動的な行動考えるよりも先に行動してしまい、結果的に失敗したり、後悔したりすることがあります。
    • 順番を待てないゲームや会話などで順番を待つことが苦手で、割り込んでしまったり、回答を急かしたりすることがあります。
    • 人の話を遮る相手が話し終わるのを待てずに、つい口を挟んでしまうことがあります。
    • 危険への配慮不足危険な場所でも躊躇なく行動してしまったり、無謀な行動に出てしまったりすることがあります。

これらの特性は、乳幼児期から見られることが多いですが、特に多動性は年齢とともに落ち着いてくることがあります。一方で、不注意や衝動性は大人になっても続き、学業や仕事、人間関係に影響を及ぼすことがあります。

ADHDの診断と大切なこと

ADHDの診断は、専門の医療機関(小児科、児童精神科、精神科、発達専門医など)で行われます。診断には、以下の様々な情報が用いられます。

  • 発達歴の確認幼少期からの不注意、多動性、衝動性に関する行動の様子について、保護者やご本人からの詳細な聞き取りを行います。
  • 行動評価尺度: ADHDの特性に特化した質問紙(例:Conners 3ADHD-RS)を用いて、客観的に評価します。
  • 心理検査知的な発達の状況や、他の発達特性(例:自閉スペクトラム症、限局性学習症)の有無などを確認するために、様々な心理検査が行われることがあります。
  • 他の疾患との鑑別うつ病や不安症、甲状腺機能亢進症など、ADHDに似た症状を引き起こす他の疾患がないかを確認することも重要です。

大切なのは、診断はあくまで「その人の特性を理解し、適切な支援に繋げるためのもの」であるということです。診断名がつくことで、その人に合った教育的配慮や福祉サービス、そして社会的なサポートを利用できるようになり、困難を軽減し、本来持っている強みを活かせる道が開かれます。

ADHDのある方へのサポート:強みを活かし、困難を乗り越えるために

ADHD自体を「治す」治療法はありません。しかし、適切な時期に適切な支援を受けることで、特性による困難を軽減し、その人ならではの強みや才能を伸ばし、充実した生活を送ることが可能です。支援は、子どもの成長段階や大人のライフステージに応じて多岐にわたります。

1. 環境調整と構造化

ADHDの特性を持つ方にとって、環境を整えることは非常に有効なサポートです。

  • 集中できる環境作り気が散る要素(雑音、視覚刺激など)を減らし、集中しやすい環境を整えます。静かな場所で作業する、パーテーションで仕切る、イヤホンを使用するなどが考えられます。
  • ルーティンの確立と視覚化毎日決まった手順や習慣を作ることで、忘れ物やミスを減らすことができます。To-Doリスト、チェックリスト、視覚的なスケジュール(ボードやアプリ)の活用も有効です。
  • 整理整頓の工夫物の定位置を決める、収納スペースを明確にするなど、整理整頓しやすい工夫をすることで、物をなくすストレスを軽減します。

2. スキルの習得とトレーニング

特性による困難を補うための具体的なスキルを学ぶトレーニングです。

  • 時間管理スキルの向上スケジュール帳、アラーム、タイマーの活用、タスクを細分化して取り組むなど、時間管理をサポートする具体的な方法を習得します。
  • 自己管理スキルの強化行動の計画、優先順位付け、タスクの見積もりなど、自分自身を管理するスキルをトレーニングします。
  • ソーシャルスキルトレーニング (SST)衝動的な発言を抑える、相手の話を聞く、順番を待つなど、社会的な状況での適切なコミュニケーション方法を、ロールプレイングなどを通して練習します。

3. 薬物療法(必要に応じて)

ADHDの特性によって日常生活に著しい困難がある場合、医師の判断で薬物療法が選択肢となることがあります。薬はADHDを「治す」ものではなく、特性を緩和し、他の支援が効果的に機能するための補助的な役割を果たします。必ず医師と相談し、メリットとデメリットを理解した上で検討することが重要ですし、副作用へのモニタリングも必要です。

4. 教育現場・職場でのサポート

  • 教育的配慮学校では、集中しやすい座席配置、指示の明確化、テスト時間の延長、板書を写真に撮る許可など、個々の特性に合わせた配慮がなされることがあります。
  • 就労支援成人期には、ハローワークの障害者専門窓口や、就労移行支援事業所など、ADHDの特性を理解した上で、その人の強みを活かせる仕事を見つけ、職場で長く働き続けられるようサポートする機関があります。職場での業務指示の明確化、定期的な進捗確認、集中できる環境整備などの配慮を促すこともあります。高崎市にも、ハローワーク高崎や群馬県発達障害者支援センターなど、様々な支援機関がありますね。
  • 地域での暮らしのサポート障害者手帳の取得(これにより様々な福祉サービスが受けられます)、相談支援事業所の活用など、地域で安心して生活し、社会参加を促すためのサービスがあります。
  • ご家族への支援家族がADHDへの理解を深め、適切な関わり方を学ぶためのペアレントトレーニングや、情報交換会なども重要なサポートです。

5. 合併症・二次障害への対応

ADHDのある方は、自閉スペクトラム症(ASD)や限局性学習症(学習障害)などの他の神経発達症を併せ持つことがあります。また、不注意や衝動性による失敗経験、周囲からの理解不足から、不安症、抑うつ、不登校、引きこもり、自尊心の低下などの「二次障害」を抱えるリスクもあります。

これらの問題に対しては、早期に気づき、専門の医療機関と連携して適切な治療やカウンセリングを行うことが重要です。オンラインカウンセリングも、二次障害による不安や抑うつへのケアとして有効な手段となり得ます。

まとめ:「苦手」を乗り越え、「得意」を伸ばすために

注意欠如・多動症(ADHD)の特性は、日常生活で困難をもたらす一方で、高い集中力(過集中)、ユニークな発想力、行動力、クリエイティブな才能といった、ポジティブな側面も多く持っています。

大切なのは、これらの特性を「個性」として理解し、困難な部分を補うための工夫や支援を受けながら、その人ならではの強みを最大限に引き出すことです。画一的な「普通」に当てはめるのではなく、一人ひとりの多様性を認め、それぞれが持つ可能性を伸ばす社会を目指すことが重要です。

もし、ご自身やご家族、身近な方でADHDの可能性を感じたり、何か困りごとを抱えていたりする場合は、一人で抱え込まずに、ぜひ専門家へ相談してください。地域の保健センター、子ども家庭支援センター、児童相談所、発達障害者支援センターなど、様々な相談窓口があります。

あなたの「うっかり」や「じっとしていられない」は、もしかしたら新たな可能性の種かもしれません。その可能性を大切に育むために、今、できることから始めてみませんか?

 

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