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2025-07-27 15:19:00

「自分が自分でない感覚」「記憶がない時間」…それは「解離症群」かもしれません。分断された心をつなぎ、自分を取り戻す道

ある日突然、「まるでロボットになったみたいに感情がない」「鏡を見ても、これが自分だと思えない」「気づいたら、知らない場所にいる。どうやって来たのか全く思い出せない」。

もし、あなた自身や大切な人が、このように意識、記憶、同一性(自分らしさ)、知覚などが一時的、あるいは慢性的に分断された状態を経験しているとしたら、それは**解離症群(Dissociative Disorders**のサインかもしれません。まるで心の一部が切り離されてしまったかのような、あるいは自分の中に複数の「私」が存在するような、非常に特異な症状が特徴です。

解離症群は、多くの場合、耐えがたいほどの極度のストレスや心的外傷(トラウマ)、特に幼少期の虐待やネグレクトといった慢性的なトラウマ体験が引き金となって発症します。それは、つらい現実から自分を守るための、心の防衛反応の一つと考えられます。決してあなたの意志が弱いからでも、性格の問題でもありません。適切な治療と支援によって、分断された心をつなぎ合わせ、自分らしさを取り戻し、穏やかな日常を歩むことが十分に可能な病気です。

この記事では、解離症群が具体的にどのような病気なのか、その主な種類と症状、そして何よりも、ご本人やご家族がどのようなサポートを受けられるのかについて、分かりやすく解説していきます。正しい理解と適切なサポートが、心の混乱を乗り越え、あなたらしい人生を歩むための道を開くでしょう。

解離症群って、どんな病気?

解離症群は、意識、記憶、同一性(自己意識)、知覚といった精神機能の一部が一時的または持続的に統合されなくなり、分断された状態になる精神疾患の総称です。主に以下の5つの種類があります。

  1. 解離性健忘(Dissociative Amnesia心的外傷的な出来事や、耐えがたいほどのストレスに関連する個人的な重要な情報(記憶)を思い出せない状態です。一般的な物忘れとは異なり、非常に広範囲にわたる記憶の喪失が特徴です。突然、自分の名前や過去の重要な出来事を思い出せなくなったり、特定の期間の記憶がすっぽり抜け落ちたりします。**解離性遁走(Dissociative Fugue**は、解離性健忘の一種で、突然家を離れて見知らぬ場所に移動し、自分の過去や個人情報が思い出せなくなる状態を指します。
  2. 離人症/現実感消失症(Depersonalization/Derealization Disorder: **離人症(Depersonalization**は、自分が自分ではないように感じる、自分の身体が現実ではないように感じる、感情がない、といった感覚です。**現実感消失症(Derealization**は、周囲の景色や人々が現実ではないように感じる、世界が歪んで見える、夢の中にいるようだ、といった感覚です。これらの感覚が、繰り返し現れたり、持続したりすることで、強い苦痛や日常生活への支障が生じます。
  3. 解離性同一性障害(Dissociative Identity Disorder, DID以前は「多重人格障害」と呼ばれていました。2つ以上の異なる「交代人格(別人格)」が存在し、それぞれの交代人格が、意識、記憶、思考、感情、行動などを支配する状態です。交代人格が表に出ている間、その間の記憶が欠落している(健忘)ことがよくあります。幼少期の極度の虐待や心的外傷が原因となることが多いとされています。
  4. 特定される他の解離症(Other Specified Dissociative Disorder, OSDD上記のいずれかの診断基準を完全に満たさないものの、臨床的に意味のある解離症状がある場合に診断されます。例えば、解離性同一性障害に似ているが、交代人格が完全には分化していない、あるいは解離性健忘が非常に重度である、などです。
  5. 特定不能の解離症(Unspecified Dissociative Disorder, UNDD解離症状があるものの、特定の解離症群の基準を満たさない場合に診断されます。

解離症状は、極度のストレスやトラウマから心を守るための、無意識的な「防衛機制」と考えられています。あまりにもつらい現実を体験した際に、その現実から意識を切り離すことで、心を守ろうとするのです。

どんな症状が現れるの?

解離症群の症状は、その種類によって異なりますが、共通して「意識、記憶、自己、知覚の分断」が特徴です。具体的な症状の例を挙げます。

  1. 記憶の障害過去の重要な出来事、自分の生い立ち、大切な人の顔や名前、スキルなどを突然思い出せない。自分がどこにいるのか、どうやってそこに来たのかが分からない(解離性遁走)。特定の時間帯の記憶がすっぽり抜け落ちている。交代人格が表に出ていた間の記憶がない(解離性同一性障害)。
  2. 自己感覚の変化「自分が自分でない」と感じる。自分の身体が遠くにあるように感じたり、手足が自分のものじゃないように感じたりする(離人症)。感情がない、感情を体験できないと感じる。鏡に映る自分が、別人のように見える。
  3. 現実感覚の変化周囲の世界が現実ではないように感じる。景色が平面的に見えたり、まるで映画を見ているように感じたりする(現実感消失症)。人々が現実の人間ではないように見える。
  4. 同一性の混乱と交代自分が誰なのか分からなくなる。自分の中に複数の人格がいるように感じる。突然、話し方や性格、好み、能力などが変わる(解離性同一性障害)。交代人格が、他の人格の存在を否定したり、コミュニケーションを取ろうとしたりする。
  5. 身体症状身体の感覚が麻痺する、痛みを感じにくい。特定の行動中に意識が飛ぶ(トランス状態)。睡眠障害(悪夢、不眠など)。ストレスによる身体的な疲労感。

これらの症状は、ご本人にとって非常に混乱し、苦痛を伴います。日常生活(仕事、学業、人間関係など)に大きな支障をきたし、周囲からは理解されにくいため、孤立感を深めることも少なくありません。

解離症群の診断と大切なこと

解離症群の診断は、専門の医療機関(精神科、心療内科)で行われます。解離症状は複雑であり、他の精神疾患の症状と区別がつきにくい場合があるため、経験豊富な専門医による慎重な診断が必要です。

  • 詳細な問診と症状の確認解離症状の具体的な内容、頻度、持続時間、それが始まったきっかけ(トラウマ体験の有無など)、日常生活への影響などを詳しく聞き取ります。幼少期の経験についても尋ねられることがあります。
  • 身体診察・検査解離症状の原因となる他の身体疾患(てんかん、脳腫瘍など)や薬物の影響によるものでないことを確認するため、必要に応じて脳波検査、MRIなどの画像検査、血液検査などが行われることもあります。
  • 精神状態の評価医師がご本人と面談し、精神状態を詳しく観察します。また、解離症状の程度を測るための質問票が用いられることもあります。
  • 他の精神疾患との鑑別精神病性障害(統合失調症など)、気分障害(うつ病、双極症)、境界性パーソナリティ障害、心的外傷後ストレス症(PTSD)など、症状が似ている他の精神疾患と鑑別することが非常に重要ですし、しばしば合併して現れることもあります。

大切なのは、解離症群の症状は、ご本人にとって非常に「奇妙」で「理解しがたい」ものであるため、「自分がおかしいのではないか」「頭がおかしくなったのではないか」と恐れ、周囲に打ち明けられずに一人で抱え込みがちな点です。しかし、これは専門的な治療が必要な病気であり、早期に診断を受け、適切な治療を開始することが、症状の悪化や慢性化を防ぎ、分断された心をつなぎ合わせるために非常に重要ですし、何よりも自信を取り戻すことにつながります。「もしかして?」と感じたら、専門機関に相談することが回復への第一歩となります。

解離症群のサポート:分断された心をつなぎ、自分を取り戻すために

解離症群は、その症状の性質上、長期的な治療が必要となることが多いですが、適切な治療と支援によって、症状をコントロールし、自分らしさを取り戻し、安定した生活を送ることが十分に可能な病気です。支援は、医療的なものだけでなく、心理社会的、社会復帰支援など、多岐にわたります。

1. 精神療法・カウンセリング

解離症群の治療の中心は、**精神療法(カウンセリング)**です。特に、トラウマに焦点を当てた精神療法が有効とされます。

  • 精神教育解離症群とはどんな病気か、なぜ解離症状が現れるのか、トラウマとの関連性、回復のプロセスなどについて正しく学びます。病気を理解することで、「自分だけがおかしいわけではない」「これは病気の症状だ」と安心し、治療への主体的な取り組みを促します。
  • 安全な環境の確保と安定化まずは、治療環境において安心感と安全感を確保することが最も重要です。信頼関係を築き、患者さんが安心して感情や記憶を語れる場を作ります。日常生活の安定(生活リズム、睡眠、食事など)もサポートします。
  • トラウマ処理安全が確保された後、段階的にトラウマ記憶に焦点を当て、その記憶を処理していく治療が行われます。過度な早期のトラウマ処理は症状を悪化させる可能性があるため、専門家による慎重な判断と、患者さんのペースに合わせた進め方が不可欠です。
    • 認知行動療法(CBT)の要素トラウマや解離症状に関連する否定的な思考を認識し、修正していく練習をします。
    • 弁証法的行動療法(DBT感情の調整、ストレス対処、対人関係スキル、マインドフルネスなどを学び、症状との付き合い方や生きづらさの解消を目指します。境界性パーソナリティ障害を合併している場合にも有効です。
    • EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)トラウマの記憶を思い出しながら特定の眼球運動を行うことで、脳の情報処理を促進し、トラウマによる苦痛を軽減するとされる治療法です。
  • 統合(解離性同一性障害の場合)解離性同一性障害の場合、最終的な目標は、異なる交代人格を「統合」し、一つの統一された自己感覚を取り戻すことですが、これは非常に困難で長期的なプロセスであり、患者さんの希望や状態によって目標は柔軟に設定されます。

2. 薬物療法(必要に応じて)

解離症群に特異的に有効な薬はありませんが、合併している他の精神症状(うつ症状、不安症状、不眠など)に対して、薬物療法が補助的に用いられることがあります。

  • 抗うつ薬(SSRIなど)うつ症状や不安症状の改善に用いられることがあります。
  • 抗不安薬強い不安や焦燥感に対して短期間使用されることがあります。
  • 睡眠導入剤深刻な不眠がある場合に、一時的に処方されることがあります。

医師の指示に従い、決められた量を決められた時間に服用することが非常に大切です。副作用が気になる場合は、自己判断で中断せずに、必ず医師に相談しましょう。

3. 生活習慣の改善

規則正しい生活リズムと健康的な生活習慣は、心身の安定を図り、解離症状を和らげる上で非常に重要です。

  • 規則正しい睡眠不眠は症状を悪化させるため、規則正しい時間に十分な睡眠をとることが大切です。
  • バランスの取れた食事栄養バランスの取れた食事を規則的に摂りましょう。
  • 適度な運動体調に合わせて、散歩や軽い体操など、無理のない範囲で体を動かすことは、ストレス軽減や気分の安定に繋がります。
  • ストレス管理ストレスは症状を悪化させる要因となるため、ストレスの原因を特定し、リラクセーション法(深呼吸、瞑想など)や趣味、休息などでストレスを上手に管理する方法を身につけましょう。

4. 周囲のサポートと社会復帰支援

ご家族や周囲の理解とサポートは、解離症群の回復にとって非常に大きな力となります。

  • 傾聴と共感ご本人の話に耳を傾け、感情に寄り添い、共感的な態度で接することが重要です。「おかしい」と決めつけず、まずはご本人の体験を理解しようと努めましょう。
  • 無理強いをしない記憶がないことを責めたり、無理に思い出させようとしたりすることは避けてください。
  • 安心できる環境を作る刺激が少なく、安心して過ごせる環境を整えるように努めましょう。
  • 専門家への受診を促すご本人が受診をためらっている場合は、そっと背中を押し、一緒に医療機関を探すなどのサポートも有効です。
  • 就労・学業支援症状が安定し、社会復帰を目指す段階では、症状の特性を考慮した上での職場復帰支援、休学・復学のサポートなどが検討されます。ストレスの少ない職場環境や、症状への対処法を実践できるような働き方を見つけるお手伝いも可能です。高崎市には、高崎市障害者支援SOSセンター ばる~ん(高崎市総合保健センター2階)や高崎市役所障害福祉課相談支援担当、群馬県発達障害者支援センターなど、様々な支援機関がありますね。
  • ピアサポート同じ病気を経験した仲間(ピアサポーター)との交流を通して、体験を分かち合い、支え合う活動です。孤独感を軽減し、回復への希望を持つことにつながります。

5. 再発予防と早期発見

解離症群は、症状が改善しても再発する可能性のある病気です。再発を防ぐためには、継続的な治療と、ご本人や周囲が症状の変化を早期に察知することが重要です。

  • 症状の日記自分の解離症状のパターン、その引き金、対処法、感情の変化などを記録することで、症状の悪化のサインや、効果的な対処法に気づきやすくなります。
  • 定期的な受診症状が安定していても、自己判断で治療を中断せず、定期的に医療機関を受診し、医師と相談しながら治療を続けることが再発予防につながります。

まとめ:分断された心にも、必ず光は届く。自分を取り戻す旅へ。

解離症群は、心の一部が分断されてしまうかのような、非常に深く、苦痛を伴う病気です。しかし、それはあなたが経験した耐えがたい現実から、心を守ろうとした結果であり、あなたの心の弱さではありません。適切な治療と、周囲の理解とサポートがあれば、分断された心をつなぎ合わせ、自分らしさを取り戻し、穏やかで充実した生活を送ることが十分に可能です。

重要なのは、病気を恐れずに正しい知識を持ち、一人で抱え込まずに、専門家や支援機関に頼ることです。

もし、ご自身やご家族、身近な方で解離症群のサインに心当たりのある方がいる場合は、一人で抱え込まずに、早めに精神科や心療内科を受診することをお勧めします。経験豊富な専門医の診察を受けることが、回復への道を開く鍵となります。

心の分断に苦しんでいるあなたは、一人ではありません。多くの支援者が、あなたの回復を心から応援し、サポートするためにここにいます。希望を持って、分断された心をつなぎ合わせ、自分を取り戻す旅へ一歩を踏み出しましょう。

 

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