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「幻覚・妄想」と「気分の波」に苦しんでいませんか?統合失調感情障害の理解とサポート
「頭の中に声が聞こえてくると思ったら、今度は気分が沈んで何も手につかなくなった」「躁状態になって活動的になったかと思えば、現実にはないことを確信してしまう」。
もし、あなた自身や大切な人が、このように統合失調症のような幻覚や妄想と、うつ病や躁うつ病のような**気分の波(抑うつや躁状態)の両方の症状に苦しんでいるとしたら、それは統合失調感情障害(Schizoaffective Disorder)**と呼ばれる精神疾患の症状かもしれません。
統合失調感情障害は、統合失調症と気分障害(うつ病や双極性障害)の特性を併せ持つ、比較的まれな病気です。この病気を持つ方は、両方の側面からくる困難に直面することが多く、周囲からも症状が理解されにくい場合があります。
この記事では、統合失調感情障害が具体的にどのような病気なのか、どんな症状が現れるのか、そして何よりも、ご本人やご家族がどのようなサポートを受けられるのかについて、分かりやすく解説していきます。正しい理解と適切なサポートが、症状を乗り越え、安定した生活を送るための第一歩となるでしょう。
統合失調感情障害って、どんな病気?
統合失調感情障害は、その名の通り、統合失調症の症状と気分障害(うつ病や躁状態)の症状が、同じ時期に、あるいは交互に現れる精神疾患です。いわば、両方の病気の中間的な位置づけにあると言えます。
脳内の神経伝達物質のバランスの乱れが関係していると考えられていますが、詳しい原因はまだ完全に解明されていません。遺伝的要因やストレス、性格傾向などが複雑に絡み合って発症すると言われています。発症年齢は若い時期に多い傾向が見られます。
この病気の診断には、DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル)の基準が用いられます。その要点は以下の通りです。
- 気分エピソード(抑うつまたは躁状態)と同時に、統合失調症の症状(幻覚や妄想など)が存在すること。
- 気分エピソードがない期間も、統合失調症の症状(幻覚や妄想など)が2週間以上持続すること。
- 病気の期間の半分以上に、気分エピソードが存在すること。
- 薬物乱用や他の医学的状態によるものではないこと。
これらの基準を満たすことで、統合失調感情障害と診断されます。
どんな症状が現れるの?
統合失調感情障害の症状は、統合失調症と気分障害の両方の特徴を持つため、非常に複雑で多岐にわたります。
- 統合失調症のような症状(精神病症状):
- 幻覚: 実際には存在しないものが、あたかも現実であるかのように感じられます。特に「悪口が聞こえる」「命令する声が聞こえる」といった幻聴が多く見られます。
- 妄想: 事実ではないことを、強く確信的に信じ込んでしまう症状です。「誰かに監視されている」「盗聴されている」といった被害妄想や、「自分は特別な能力がある」といった誇大妄想などがよく見られます。
- 思考の混乱: 考えがまとまらず、話が飛躍したり、支離滅裂になったりすることがあります。
- 陰性症状: 感情の起伏が乏しくなる(感情の平板化)、意欲が低下する、対人交流が減るなどの症状が見られることもあります。
- 気分障害のような症状(気分エピソード):
- 抑うつエピソード: 2週間以上にわたり、気分の落ち込み、興味や喜びの喪失、食欲や睡眠の変化、倦怠感、集中力の低下、無価値感、希死念慮などが強く現れます。
- 躁エピソード: 1週間以上にわたり、気分が高揚し、活動性が高まる、睡眠時間が短くなる、多弁になる、衝動的な行動が増える、自尊心が肥大するなどの症状が見られます。現実離れした計画を立てたり、金銭的な問題を引き起こしたりすることもあります。
- 混合エピソード: 抑うつ症状と躁症状が同時に、あるいは急速に切り替わりながら現れることがあります。
これらの症状が重なり合って現れるため、ご本人にとっては非常に苦痛であり、周囲も症状の理解や対応に戸惑うことがあります。
統合失調感情障害の診断と大切なこと
統合失調感情障害の診断は、専門の医療機関(精神科、心療内科)で行われます。診断には、問診、症状の経過、精神状態の評価などが総合的に用いられます。
- 詳細な問診と症状の確認: ご本人やご家族から、幻覚・妄想の有無や内容、気分の波の有無とパターン、それぞれの症状がいつから見られるようになったか、日常生活にどのような影響が出ているかなどを詳しく聞き取ります。
- 精神状態の評価: 医師がご本人と面談し、思考、感情、知覚、行動の様子を詳しく観察します。特に、幻覚・妄想と気分の波の出現時期や持続期間を慎重に評価します。
- 身体診察・検査: 症状が他の病気(甲状腺機能障害や薬物の影響など)によるものでないかを確認するため、血液検査や画像診断などが行われることもあります。
大切なのは、統合失調感情障害は症状が複雑であるため、診断が難しい場合があるということです。正確な診断のためには、精神科医との継続的な診察と情報提供が不可欠です。ご家族からの客観的な情報も、診断の重要な手がかりとなります。
統合失調感情障害のサポート:症状をコントロールし、安定した生活へ
統合失調感情障害は、適切な治療と支援によって、症状をコントロールし、安定した生活を送ることが十分に可能な病気です。支援は、医療的なものだけでなく、心理社会的、社会復帰支援など、多岐にわたります。
1. 薬物療法
統合失調感情障害の治療の中心は、薬物療法です。統合失調症の症状と気分症状の両方に対応するため、複数の種類の薬が組み合わせて用いられることが多いです。
- 抗精神病薬: 幻覚や妄想といった統合失調症の症状を軽減し、精神状態を安定させます。
- 気分安定薬: 躁状態やうつ状態といった気分の波を安定させるために用いられます。リチウムやバルプロ酸などが処方されることがあります。
- 抗うつ薬: 主にうつ症状が強い場合に処方されますが、抗精神病薬や気分安定薬と併用されることが多く、医師の慎重な判断のもと使用されます。
医師の指示に従い、決められた量を決められた時間に服用することが非常に大切です。症状が落ち着いてからも、再発を防ぐために服薬を続ける「維持療法」が必要となることが多いです。副作用が気になる場合は、自己判断で中断せずに、必ず医師に相談しましょう。
2. 心理社会的支援(精神療法・カウンセリング)
薬物療法と並行して、心理社会的支援も回復に欠かせません。
- 精神教育: 病気についてご本人やご家族が正しく理解するための情報提供を行います。病気のメカニズム、症状、治療法、再発予防策などを学ぶことで、病気への理解が深まり、治療への主体的な参加を促します。
- 認知行動療法(CBT): 幻覚や妄想、気分の波に伴う思考の偏りや対処法を学び、不安やストレスを軽減するのに役立ちます。
- SST(ソーシャルスキルトレーニング): 対人関係のスキルや、日常生活で必要な社会的なスキル(あいさつ、自己主張、ストレス対処など)を、ロールプレイングなどを通して練習します。社会復帰を目指す上で非常に有効です。
- 生活技能訓練: 規則正しい生活リズムの確立、セルフケア(入浴、食事、睡眠など)の維持、服薬管理など、日常生活に必要なスキルを身につけるための支援が行われます。
3. 社会復帰支援と生活の場へのサポート
症状が安定してくると、社会復帰や自立した生活を目指すための支援が重要になります。
- デイケア・作業療法: 医療機関や福祉施設で行われるプログラムで、規則正しい生活リズムの獲得、作業活動を通じた集中力の向上、人との交流、社会参加への準備などを行います。
- 就労支援: ハローワークの専門援助部門、地域障害者職業センター、就労移行支援事業所など、病気の特性を理解した上で、仕事を見つけ、職場で長く働き続けられるようサポートする機関があります。職場での業務指示の明確化、人間関係の調整、ストレスマネジメントなどの配慮を促すこともあります。高崎市にも、ハローワーク高崎や群馬県発達障害者支援センターなど、様々な支援機関がありますね。
- 居住支援: グループホームやケアホームといった、専門スタッフの支援を受けながら地域で生活できる場があります。自立した生活に向けて、家事や金銭管理の練習なども行われます。
- ピアサポート: 同じ病気を経験した仲間(ピアサポーター)との交流を通して、体験を分かち合い、支え合う活動です。孤独感を軽減し、回復への希望を持つことにつながります。
- ご家族への支援: 家族会や相談会などを通じて、病気への理解を深め、ご本人への接し方や、家族自身のストレスケアについて学ぶことができます。家族のサポートは、ご本人の回復にとって非常に大きな力となります。
4. 再発予防と早期発見
統合失調感情障害は、症状が改善しても再発する可能性があります。再発を防ぐためには、継続的な治療と、ご本人や周囲が再発のサインを早期に察知することが重要です。
- 症状の日記: 自分の体調や精神状態の変化(特に気分の変化や幻覚・妄想の強さ)を記録することで、再発のサインに気づきやすくなります。
- ストレス管理: ストレスが症状の悪化や再発の引き金になることがあるため、ストレスを上手に管理する方法を身につけることが大切です。
- 定期的な受診: 症状が安定していても、定期的に医療機関を受診し、医師と相談しながら治療を続けることが再発予防につながります。
まとめ:複雑な症状だからこそ、正しい理解と継続的な支援を
統合失調感情障害は、統合失調症と気分障害の両方の側面を持つため、複雑で理解されにくい病気かもしれません。しかし、適切な治療と継続的な支援があれば、症状をコントロールし、自分らしい生活を送ることが十分に可能な病気です。
重要なのは、病気を恐れずに正しい知識を持ち、一人で抱え込まずに、専門家や支援機関に頼ることです。
もし、ご自身やご家族、身近な方で統合失調感情障害の症状に心当たりのある方がいる場合は、早めに精神科や心療内科を受診することをお勧めします。早期の診断と介入が、回復への道を開く鍵となります。
病気と共に生きる中で、様々な困難に直面することもあるかもしれません。しかし、あなた一人ではありません。多くの支援者が、あなたの回復を心から応援し、サポートするためにここにいます。希望を持って、回復への一歩を踏み出しましょう。