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2025-07-27 15:11:00

検査は異常なし、でも「体の不調」が続く…それは「身体症状症」かもしれません。見過ごされがちな心のSOSに気づき、楽になる道へ

「病院で何度も検査を受けたけど、どこも悪くないと言われる。でも、ずっとこの頭痛が治らない」「原因不明の疲労感が続いて、毎日が辛い」「お腹の調子が悪いのが、もう何年も続いている。誰も分かってくれない」。

もし、あなた自身や大切な人が、このように医学的に説明のつかない身体の不調(痛み、疲労、消化器症状など)が長く続き、それに対する強い不安や、日常生活への支障を伴っているとしたら、それは**身体症状症(Somatic Symptom Disorder**のサインかもしれません。単なる「気のせい」や「気の持ちよう」では片付けられない、深刻な苦痛を伴うのが特徴です。

身体症状症は、身体の不調が中心となる病気ですが、その背景には心のストレスや不安が深く関わっていることが多いと考えられています。これはあなたの性格の弱さや怠けではありません。あなたの心が、言葉にならない苦しみを身体を通して表現しているSOSかもしれません。適切な治療と支援によって、身体の不調を和らげ、心と体のバランスを取り戻し、穏やかな日常を歩むことが十分に可能な病気です。

この記事では、身体症状症が具体的にどのような病気なのか、どんな症状が現れるのか、そして何よりも、ご本人やご家族がどのようなサポートを受けられるのかについて、分かりやすく解説していきます。正しい理解と適切なサポートが、見過ごされがちな心のSOSに気づき、あなたらしい自由な人生を歩むための道を開くでしょう。

身体症状症って、どんな病気?

身体症状症は、一つまたは複数の身体症状に悩み、その症状について過度な考えや感情、行動を示す精神疾患です。身体症状自体は、医学的に原因が見つからないこともあれば、軽微な身体的疾患が背景にあることもあります。しかし、身体症状症の特徴は、その身体症状に対する心理的な反応にあります。

具体的には、以下の3つのうち、1つ以上が持続的に見られます。

  1. 症状に関する不釣り合いで過度な思考症状の深刻さについて、過剰に心配したり、大げさに考えたりする。 症状に関する健康上の不安が頭から離れない。
  2. 症状に関する高いレベルの不安身体症状に対して常に強い不安を感じ、少しの体の変化にも過敏になる。
  3. 症状や健康上の懸念に費やされる過度な時間とエネルギー症状のことばかり考えたり、医療機関を受診し続けたり、症状を検索し続けたりするなど、日常生活の大部分を症状に費やしてしまう。

これらの特徴が、通常6ヶ月以上にわたって持続する場合に診断されます。

身体症状症は、脳の機能的な偏り、ストレス、過去のトラウマ、性格傾向(完璧主義、心配性など)、幼少期の養育環境などが複雑に絡み合って発症すると考えられています。決して「仮病」や「作り話」ではなく、ご本人にとっては非常に現実的な苦痛を伴います。

どんな症状が現れるの?

身体症状症で現れる症状は多岐にわたり、特定の臓器や部位に限定されるものではありません。最も一般的なのは「痛み」ですが、消化器症状、疲労感、神経症状など、様々な形で現れることがあります。

【よく見られる身体症状の例】

  • 痛み頭痛、首の痛み、肩こり、腰痛、関節痛、胸の痛み、腹痛など、体中のあらゆる部位に現れる可能性があります。 特定の医学的な原因が見つからないにもかかわらず、痛みが非常に強く、慢性的に続く。
  • 消化器症状吐き気、嘔吐、腹部の膨満感、便秘、下痢、過敏性腸症候群に似た症状など。
  • 神経症状しびれ、めまい、ふらつき、脱力感、麻痺、感覚の異常など。
  • 疲労感慢性的な疲労感や倦怠感が続き、休息しても改善しない。
  • 心血管系症状動悸、息苦しさ、胸の圧迫感など。
  • その他皮膚の異常感、発汗、性的な不調、呼吸困難など。

【身体症状に対する心理的・行動的反応の例】

  • 医師への執着何度も病院を受診し、様々な診療科を転々とする「ドクターショッピング」。
  • 検査への要求「もっと詳しく検査してほしい」と繰り返し要求する。
  • 症状への過剰な心配些細な身体の変化にも過敏になり、「重大な病気ではないか」と過剰に不安になる。
  • 情報収集症状についてインターネットなどで徹底的に調べ、より不安を増幅させてしまう。
  • 日常生活への影響症状のために仕事や学業に行けない、趣味を楽しめない、家事ができないなど、生活が著しく制限される。
  • 周囲への訴え家族や友人などに対し、繰り返し身体の不調を訴える。
  • 治療への不信感「医師が自分の病気を理解してくれない」「治療が間違っている」と感じ、治療法を頻繁に変えたり、治療を中断したりする。

これらの症状が重なり合い、ご本人にとっては非常に苦痛であり、周囲からは「怠けている」「わがまま」などと誤解されやすい傾向があります。しかし、ご本人は本当に身体の不調を感じており、それによって生活の質が著しく低下している状態です。

身体症状症の診断と大切なこと

身体症状症の診断は、専門の医療機関(精神科、心療内科)で行われます。身体症状が中心となるため、まずは身体的な疾患がないか、内科などで精密な検査を受けることが重要です。しかし、検査で異常が見つからない場合や、症状の程度が医学的な所見で説明できない場合に、精神科医が身体症状症の診断を検討します。

  • 身体科での除外診断最初に、症状の原因となる身体的な病気がないかを徹底的に検査します。このプロセスは非常に重要ですが、検査を繰り返しても異常が見つからない場合に、精神科への受診を勧められることがあります。
  • 詳細な問診と症状の確認精神科医は、身体症状の具体的な内容、それが始まったきっかけ、症状に対するご本人の考えや感情、行動、日常生活への影響などを詳しく聞き取ります。症状が続く期間や、ご本人の「病気」に対する考え方も重要な情報となります。
  • 精神状態の評価医師がご本人と面談し、精神状態を詳しく観察します。うつ病や不安症などの他の精神疾患が合併していることも多いため、それらの有無も確認されます。

大切なのは、身体症状症は「気のせい」や「仮病」ではないということです。ご本人は本当に身体の不調を感じており、その苦痛は現実のものです。しかし、精神的な要因が身体症状に影響を与えている可能性を理解し、身体科と精神科が連携した治療を受けることが、回復への鍵となります。 精神科への受診に抵抗があるかもしれませんが、「体の不調」の原因が「心」にある可能性を受け入れることが、治療の第一歩となります。

身体症状症のサポート:心と体のバランスを取り戻すために

身体症状症は、その性質上、治療に時間がかかることもありますが、適切な治療と支援によって、身体の不調による苦痛を軽減し、心と体のバランスを取り戻し、日常生活の質を向上させることが十分に可能な病気です。

1. 精神療法・カウンセリング

身体症状症の治療の中心は、**精神療法(カウンセリング)**です。特に、**認知行動療法(CBT**が最も有効とされています。

  • 精神教育身体症状症とはどんな病気か、なぜ身体症状が現れるのか、心と体のつながりについて正しく学びます。身体症状は「気のせい」ではなく、実際に苦痛を伴うものであることを認めつつも、その背景にある心理的な要因を理解することで、漠然とした不安が軽減され、治療への主体的な取り組みを促します。
  • 認知行動療法(CBT:
    • 身体症状に関する思考の修正「この症状は重い病気のサインだ」「治らない」といった、身体症状に対する過剰な心配や破局的な思考を認識し、より現実的で建設的な考えに置き換える練習をします。
    • 行動の調整ドクターショッピングや過度な検査要求、インターネットでの情報検索など、症状にまつわる不適切な行動を減らし、代わりに心身の健康を促進する行動(適度な運動、趣味など)を増やす練習をします。
    • ストレス管理技法リラクセーション法(腹式呼吸、漸進的筋弛緩法など)、マインドフルネス、タイムマネジメントなどを学び、日常生活でストレスを上手に管理する方法を身につけます。
    • 症状への向き合い方症状を完全に消し去ることを目標とするのではなく、症状があっても日常生活を支障なく送れるようになることを目指します。症状を別の角度から捉えたり、症状との付き合い方を変えたりする練習をします。

2. 薬物療法(必要に応じて)

身体症状症に特異的に有効な薬はありませんが、症状によって、あるいは合併している他の精神症状(うつ症状、不安症状、不眠など)に対して、薬物療法が補助的に用いられることがあります。

  • 抗うつ薬(SSRISNRIなど)うつ症状や不安症状の改善に用いられることがあります。また、慢性的な痛みの軽減に効果を示す場合もあります。
  • 抗不安薬強い不安や不眠に対して短期間使用されることがあります。

医師の指示に従い、決められた量を決められた時間に服用することが非常に大切です。副作用が気になる場合は、自己判断で中断せずに、必ず医師に相談しましょう。

3. 生活習慣の改善

規則正しい生活リズムと健康的な生活習慣は、心身のバランスを整え、症状を和らげる上で非常に重要です。

  • 規則正しい睡眠睡眠不足は身体症状を悪化させることもあるため、規則正しい時間に十分な睡眠をとることが大切です。
  • バランスの取れた食事栄養バランスの取れた食事を規則的に摂りましょう。
  • 適度な運動体調に合わせて、散歩や軽い体操など、無理のない範囲で体を動かすことは、ストレス軽減や気分の安定に繋がります。
  • ストレス管理ストレスは症状を悪化させる要因となるため、ストレスの原因を特定し、リラクセーション法や趣味、休息などでストレスを上手に管理する方法を身につけましょう。

4. 周囲のサポートと社会復帰支援

ご家族や周囲の理解とサポートは、身体症状症の回復にとって大きな力となります。

  • 傾聴と共感、しかし症状を増幅させないご本人の身体の不調は、実際に感じている苦痛であることを理解し、共感的に話を聞くことが重要です。しかし、過剰に同情したり、症状をめぐる不適切な行動を助長したりしないように注意が必要です。症状にばかり注目するのではなく、ご本人の全体的な健康や日常生活への関心を向けるよう促しましょう。
  • 医療機関への受診を促す身体科で異常がなかった場合でも、精神科・心療内科の受診を促し、心の面からのケアが必要であることを穏やかに伝えましょう。
  • ご家族自身のストレスケアご家族も、ご本人の症状によって疲弊することがあります。ご家族自身の心の健康も大切にし、必要であれば相談機関などを利用しましょう。
  • 就労・学業支援症状が安定し、仕事や学業への復帰を目指す段階では、ストレス要因を考慮した上での復帰支援などが検討されます。産業医やカウンセラー、大学の学生相談室なども活用できます。高崎市には、高崎市障害者支援SOSセンター ばる~ん(高崎市総合保健センター2階)や高崎市役所障害福祉課相談支援担当、群馬県発達障害者支援センターなど、様々な支援機関があります。
  • ピアサポート同じ病気を経験した仲間(ピアサポーター)との交流を通して、体験を分かち合い、支え合う活動です。孤独感を軽減し、回復への希望を持つことにつながります。

5. 再発予防と早期発見

身体症状症は、ストレスが再び高まると症状が再燃することもあります。再発を防ぐためには、継続的な治療と、ご本人や周囲が症状の変化を早期に察知することが重要です。

  • 症状の日記自分の身体症状、その時の気分やストレス、対処法などを記録することで、症状の悪化のサインや、効果的な対処法に気づきやすくなります。
  • 定期的な受診症状が安定していても、自己判断で治療を中断せず、定期的に医療機関を受診し、医師やカウンセラーと相談しながら治療を続けることが再発予防につながります。

まとめ:体からのSOSに耳を傾け、心も体も健やかな自分へ。

身体症状症は、原因不明の身体の不調に苦しみ、それが心のストレスや不安と深く結びついている病気です。それはあなたの心の弱さや、気の持ちようのせいではありません。あなたの体が、言葉にならないSOSを発しているのかもしれません。適切な治療と、周囲の理解とサポートがあれば、そのSOSに耳を傾け、身体の不調を和らげ、心と体のバランスを取り戻し、穏やかで充実した生活を送ることが十分に可能です。

重要なのは、病気を恐れずに正しい知識を持ち、一人で抱え込まずに、専門家や支援機関に頼ることです。

もし、ご自身やご家族、身近な方で身体症状症のサインに心当たりのある方がいる場合は、一人で抱え込まずに、早めに精神科や心療内科を受診することをお勧めします。体の不調の背景にある心のサインに気づくことが、回復への道を開く鍵となります。

体からのSOSに苦しんでいるあなたは、一人ではありません。多くの支援者が、あなたの回復を心から応援し、サポートするためにここにいます。希望を持って、心も体も健やかな自分を取り戻すための一歩を踏み出しましょう。

 

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