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2025-07-27 15:08:00

気分の波に振り回されていませんか?「気分循環症」のサインと、穏やかな日常への道

「なんだか気分が良い日が続くけれど、なぜかイライラしやすい」「いつもより活動的なのに、うつ状態の時の方が圧倒的に多い」。

もし、あなた自身や大切な人が、このように小さな気分の波が頻繁に訪れ、日常生活に影響を与えているとしたら、それは**気分循環症(Cyclothymic Disorder**と呼ばれる精神疾患の症状かもしれません。双極症(躁うつ病)の一種ですが、双極症I型やII型のように明確な「躁状態」や「うつ状態」の診断基準は満たさないものの、軽度の高揚(軽躁状態に満たないレベル)と軽度の抑うつ状態(うつ状態に満たないレベル)が長期間にわたって繰り返されるのが特徴です。

気分循環症の症状は、その軽さゆえに「個性」や「性格」と見過ごされやすく、本人も周囲も病気であることに気づきにくいことがあります。しかし、この不安定な気分の波は、人間関係や仕事、学業にじわじわと影響を及ぼし、大きな苦痛や生きづらさにつながることが少なくありません。

この記事では、気分循環症が具体的にどのような病気なのか、どんな症状が現れるのか、そして何よりも、ご本人やご家族が安定した生活を送るためのどのようなサポートを受けられるのかについて、分かりやすく解説していきます。正しい理解と適切なサポートが、この「見えにくい」気分の波と向き合い、穏やかな日常を取り戻すための第一歩となるでしょう。

気分循環症って、どんな病気?

気分循環症は、軽度の高揚感や活動性の増加(軽躁状態に満たないレベル)と、軽度の気分の落ち込みや意欲の低下(うつ状態に満たないレベル)が、長期間にわたって繰り返し現れる精神疾患です。具体的には、成人では少なくとも2年間(子どもや青年では1年間)にわたり、このような気分の不安定さが続く場合に診断されます。この2年間の中で、症状のない期間が2ヶ月以上続くことはありません。

脳内の神経伝達物質のバランスの乱れが関係していると考えられており、遺伝的要因やストレス、生活リズムの乱れなどが発症に影響すると言われています。これは決して、性格の問題や、努力不足で起こるものではありません。

発症は思春期から青年期にかけて多く見られます。症状が軽いため、ご本人が「自分は気分屋だから」と片付けたり、周囲も「ちょっと変わり者だけど、そういう性格なんだ」と認識したりすることがあり、診断に至るまで時間がかかる傾向があります。しかし、放置すると双極症I型やII型に移行するリスクがあるとも言われています。

どんな症状が現れるの?

気分循環症の症状は、双極症I型やII型のように極端ではありませんが、持続的な気分の不安定さが特徴です。

  1. 軽度の高揚感・活動性の増加いわゆる「元気な時期」で、軽躁状態の診断基準を満たすほどではありませんが、以下のような変化が見られます。
    • 普段より気分が高揚し、開放的になる。
    • 根拠のない自信に満ち溢れ、「何でもできる」と感じる。
    • 睡眠時間が短くても平気になり、活動的になる。
    • おしゃべりになる、話し方が早口になる。
    • アイデアが次々と浮かび、多趣味になる。
    • 衝動的に行動する(衝動買いなど)。
    • 些細なことでイライラしやすくなる、怒りっぽくなる。
  2. 軽度の気分の落ち込み・意欲の低下うつ状態の診断基準を満たすほどではありませんが、以下のような変化が見られます。
    • 気分の落ち込みや憂鬱感が続く。
    • 以前は楽しめたことにも興味が薄れる。
    • 体がだるく、疲れやすい。
    • 集中力が続かない。
    • 悲観的になり、自分を責める傾向がある。
    • 人との交流を避けるようになる。

これらの気分の波は、予測不能に現れたり、一日のうちに何度も変動したりすることもあります。そのため、周囲からは「気まぐれ」「気分屋」「一貫性がない」などと誤解されやすく、人間関係や仕事の継続に困難が生じることがあります。

気分循環症の診断と大切なこと

気分循環症の診断は、専門の医療機関(精神科、心療内科)で行われます。診断には、問診、症状の経過、精神状態の評価などが総合的に用いられます。

  • 詳細な問診と症状の確認ご本人やご家族から、過去2年間以上の気分の波のパターン、それぞれの気分の期間と強度、日常生活への影響などを詳しく聞き取ります。「最も調子の良かった時期」や「最も落ち込んだ時期」の具体的なエピソードを詳しく伝えることが重要です。
  • 精神状態の評価医師がご本人と面談し、思考、感情、行動の様子を詳しく観察します。
  • 他の精神疾患との鑑別うつ病、双極症I型、II型、パーソナリティ障害など、他の病気と症状が似ている場合があるため、慎重に鑑別が行われます。薬物の影響や他の医学的疾患によるものでないことも確認されます。

大切なのは、気分循環症は軽度の症状が長期間続くため、ご本人が病気と認識しにくい点です。そのため、診断に至るまで時間がかかることが多く、その間に社会生活上の困難が蓄積してしまうことがあります。ご自身の気分の波に「何かおかしいな」と感じたり、周囲から指摘されたりした場合は、早めに専門機関に相談することが重要です。

気分循環症のサポート:症状をコントロールし、安定した生活へ

気分循環症は、適切な治療と支援によって、気分の波をコントロールし、安定した生活を送ることが十分に可能な病気です。支援は、医療的なものだけでなく、心理社会的、社会復帰支援など、多岐にわたります。

1. 薬物療法(必要に応じて)

気分循環症の治療の中心は、薬物療法よりも心理社会的支援や生活習慣の改善が重視されることが多いですが、症状の程度や生活への影響によっては、薬物療法が選択されることもあります。

  • 気分安定薬気分の波を安定させるために、低用量で気分安定薬が処方されることがあります。双極症への移行リスクを考慮して用いられることもあります。
  • 抗うつ薬気分循環症では、抗うつ薬のみの使用は気分の不安定さを増す可能性があるため、慎重に判断されます。使用される場合も、気分安定薬と併用されることが一般的です。

医師の指示に従い、決められた量を決められた時間に服用することが非常に大切です。副作用が気になる場合は、自己判断で中断せずに、必ず医師に相談しましょう。

2. 心理社会的支援(精神療法・カウンセリング)

薬物療法と並行して、心理社会的支援は気分循環症の回復に非常に重要です。

  • 精神教育病気についてご本人やご家族が正しく理解するための情報提供を行います。気分の波が性格の問題ではないこと、病気であること、適切な対処法があることなどを学ぶことで、自己理解を深め、病気への主体的な取り組みを促します。
  • 認知行動療法(CBT気分の波に伴う思考の偏りや、ストレスへの対処法を学び、症状の悪化を防ぐのに役立ちます。特に、軽度の高揚期に衝動的な行動をとってしまったり、軽度の抑うつ期にネガティブな思考に陥ったりするパターンを認識し、修正していく練習をします。
  • 対人関係・社会リズム療法(IPSRT生活リズムの乱れが気分の波に影響を与えることに着目し、安定した生活リズムの確立と、人間関係の問題への対処法を学びます。これは気分循環症に特に有効なアプローチとされています。
  • 家族への心理教育ご家族が病気への理解を深め、ご本人への接し方(例えば、高揚期にのめり込みすぎないよう冷静に助言する、落ち込み期に無理強いしないなど)、ご家族自身のストレスケアについて学ぶことができます。家族のサポートは、ご本人の回復にとって非常に大きな力となります。

3. 生活習慣の改善

規則正しい生活リズムを維持することは、気分の波を安定させる上で非常に重要です。

  • 十分な睡眠睡眠不足や不規則な睡眠は気分の不安定さを増幅させるため、規則正しい時間に十分な睡眠をとることが大切です。
  • 規則正しい食事バランスの取れた食事を規則的に摂ることも、体調管理に繋がります。
  • 適度な運動適度な運動は、気分の安定やストレス軽減に役立ちますが、過度な活動は高揚感を招く可能性もあるため、自分に合った運動量を見つけることが重要です。
  • ストレス管理ストレスを上手に管理する方法(リラクゼーション、趣味、休息など)を身につけることが、症状の悪化や再発予防に繋がります。

4. 社会復帰支援と生活の場へのサポート

症状が安定してくると、社会生活への参加を促す支援も重要になります。

  • デイケア・作業療法医療機関や福祉施設で行われるプログラムで、規則正しい生活リズムの獲得、作業活動を通じた集中力の向上、人との交流、社会参加への準備などを行います。
  • 就労支援ハローワークの障害者専門援助部門、地域障害者職業センター、就労移行支援事業所など、病気の特性を理解した上で、仕事を見つけ、職場で長く働き続けられるようサポートする機関があります。気分の波に対応できる働き方や、ストレスの少ない職場環境を探すお手伝いも可能です。高崎市にも、ハローワーク高崎や群馬県発達障害者支援センターなど、様々な支援機関がありますね。
  • ピアサポート同じ病気を経験した仲間(ピアサポーター)との交流を通して、体験を分かち合い、支え合う活動です。孤独感を軽減し、回復への希望を持つことにつながります。

5. 再発予防と早期発見

気分循環症は、症状が改善しても再発する可能性が高い病気です。再発を防ぐためには、継続的な治療と、ご本人や周囲が再発のサインを早期に察知することが重要です。

  • 気分安定ノート/アプリ自分の気分の変化、睡眠時間、活動量、服薬状況などを記録することで、気分の波のパターンや再発のサインに気づきやすくなります。
  • 再発サインの把握医師や家族と共に、自分にとっての高揚感や落ち込みの初期サイン(例:不眠、イライラ、多弁、食欲の変化、衝動的な行動など)を把握しておくことが大切です。
  • 定期的な受診症状が安定していても、定期的に医療機関を受診し、医師と相談しながら治療を続けることが再発予防につながります。

まとめ:気分の波はあなたのせいじゃない。適切な支援で、穏やかな日常へ

気分循環症は、その軽さゆえに「個性」として見過ごされがちですが、放置すると生活の質を大きく低下させ、他の精神疾患へ移行する可能性もあります。しかし、この「見えにくい」気分の波に気づき、正しい診断と適切な治療、そして生活習慣の工夫を行うことで、症状をコントロールし、安定した日常生活を送ることが十分に可能です。

重要なのは、病気を恐れずに正しい知識を持ち、一人で抱え込まずに、専門家や支援機関に頼ることです。

もし、ご自身やご家族、身近な方で気分循環症の症状に心当たりのある方がいる場合は、早めに精神科や心療内科を受診することをお勧めします。早期の診断と介入が、回復への道を開く鍵となります。

気分の波は、あなたの個性の一部ではありません。それは乗り越えられる病気です。希望を持って、自分らしい安定した生活を目指しましょう。

 

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