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あの衝撃からまだ間もない…「急性ストレス症」のサインと、今、あなたにできること
突然の出来事。信じられない光景。心臓がバクバクして、息が止まりそうになった。 あれから数日、あるいは数週間…。 「まるで夢の中にいるみたいに現実感がない」「あの時のことが、何度も頭の中にフラッシュバックしてくる」「眠れないし、些細な音にもびくびくしてしまう」。
もし、あなた自身や大切な人が、圧倒的な恐怖や悲惨な出来事を経験した後、このような心と体の反応に苦しんでいるとしたら、それは**急性ストレス症(Acute Stress Disorder, ASD)**のサインかもしれません。PTSDと混同されがちですが、急性ストレス症は、トラウマとなる出来事を経験してから比較的早い時期(3日から1ヶ月以内)に現れる、一時的なストレス反応を指します。
これは、心と体が極度のストレスに直面した際に、自分自身を守ろうとして起こる、ごく自然な反応です。あなたの心の弱さや、乗り越えられない甘えではありません。この初期段階で適切なケアを行うことで、症状の悪化を防ぎ、将来的なPTSDへの移行リスクを減らすことが可能です。
この記事では、急性ストレス症が具体的にどのような病気なのか、どんな症状が現れるのか、そして何よりも、ご本人やご家族が今、どのようなサポートを受けられるのかについて、分かりやすく解説していきます。正しい理解と適切なサポートが、心の混乱を乗り越え、穏やかな日常への第一歩となるでしょう。
急性ストレス症って、どんな病気?
急性ストレス症は、実際に体験した、または目撃した、あるいは他者に起こった、死の危険や重い怪我、性的暴力などの「心的外傷(トラウマ)」となる出来事の後に、3日から1ヶ月以内に発症する精神疾患です。
トラウマとなる出来事の例としては、以下のようなものがあります。
- 交通事故、災害(地震、津波など)
- 犯罪被害(暴行、強盗、誘拐など)
- 突然の身近な人の死
- 戦闘体験、テロ事件
- 重い病気の告知、医療ミス
これらの出来事によって、心と体が一時的に混乱し、様々な症状が現れます。重要なのは、これらの症状は、心が強いストレスを処理しようとしている途中の反応であるということです。多くの場合は時間の経過とともに自然に改善しますが、症状が1ヶ月以上続く場合はPTSDに移行している可能性があり、より長期的なケアが必要になります。
どんな症状が現れるの?
急性ストレス症の症状は、PTSDの症状と共通する部分が多いですが、その発症時期と持続期間が特徴です。主に以下の5つの症状群のうち、9つ以上の症状が3日から1ヶ月の間に現れる場合に診断されます。
- 侵入症状(再体験):
- 繰り返し思い出す、不快な記憶: 意図しないのに、トラウマ体験の映像、音、匂い、感覚などが突然頭によみがえる。
- 悪夢: トラウマに関連する悪夢を繰り返し見る。
- フラッシュバック: まるでその出来事が今、ここで起きているかのように鮮明に感じられる。
- 関連する cues(手がかり)への身体反応: トラウマを思い出させるもの(場所、音、匂いなど)に遭遇すると、動悸、息切れ、発汗などの身体症状が現れる。
- 陰性気分:
- ポジティブな感情(幸福感、愛情など)を感じられない、喜びを感じられない。
- 解離症状: 現実感が薄れたり、自分が自分ではないように感じたりする症状です。ストレスから心を守ろうとする反応の一つと考えられます。
- 現実感の喪失(非現実感): 周囲の景色や出来事が現実ではないように感じる。
- 離人感: 自分が自分ではないように感じる、体から魂が抜け出したように感じる。
- 健忘: トラウマとなった出来事の重要な部分を思い出せない。
- 茫然自失: 周囲の出来事に対してぼーっとして反応が鈍くなる。
- 回避症状: トラウマに関連する思考、感情、感覚、あるいはトラウマを思い出させる状況や場所、人物を避けるようになります。
- トラウマに関する会話を避ける、出来事について考えないようにする。
- トラウマが起きた場所に行かない、それに関連するテレビ番組やニュースを見ない。
- 覚醒症状(過覚醒): 常に神経が張り詰めた状態で、過度に警戒したり、些細な刺激にも過剰に反応したりするようになります。
- 睡眠障害: 寝つきが悪くなる、夜中に何度も目が覚めるなどの不眠が見られる。
- 易刺激性、怒りっぽい: 些細なことでイライラしたり、怒りを爆発させたりしやすくなる。
- 過度な警戒心: 常に周囲を警戒し、危険が潜んでいないかを探してしまう。
- 集中困難: 心配事が頭の中を占めているため、一つのことに集中することが難しくなる。
- 過剰な驚愕反応: 些細な物音や突然の出来事にも、びくっと飛び上がるように驚く。
これらの症状がトラウマ体験後3日から1ヶ月の間に現れ、日常生活(仕事、学業、人間関係など)に大きな支障をきたす場合に、急性ストレス症と診断されます。
急性ストレス症の診断と大切なこと
急性ストレス症の診断は、専門の医療機関(精神科、心療内科)で行われます。早期の介入が、症状の悪化やPTSDへの移行を防ぐために非常に重要です。
- 詳細な問診と症状の確認: トラウマ体験の内容、それがいつ、どのように起こったか、その後どのような症状(侵入症状、陰性気分、解離症状、回避症状、覚醒症状)が現れているか、それらの症状が日常生活にどのような影響を与えているかなどを詳しく聞き取ります。
- 身体診察・検査: 症状が他の身体疾患によるものでないことを確認するため、必要に応じて身体的な検査が行われることもあります。
- 精神状態の評価: 医師がご本人と面談し、精神状態を詳しく観察します。
- 他の精神疾患との鑑別: PTSD(症状が1ヶ月以上続く場合)、パニック症、うつ病など、他の精神疾患と鑑別することが重要です。
大切なのは、これらの症状はあなたが弱くなったわけではなく、体が異常なストレスに反応している自然な心の働きであると理解することです。そして、一人で抱え込まずに、専門家や信頼できる人に相談することです。早期の相談とケアが、回復への鍵となります。
急性ストレス症のサポート:心の混乱を乗り越え、回復への第一歩
急性ストレス症は、多くの場合、時間とともに症状が改善する傾向にありますが、適切な治療と支援を受けることで、その回復を早め、将来的なPTSDへの移行を防ぐことができます。
1. 休養と環境調整
まず何よりも大切なのは、心と体を休ませることです。
- 安全な環境の確保: トラウマを思い出させるような刺激から離れ、安心して過ごせる場所を確保しましょう。
- 十分な休養: 無理をせず、仕事や学業から一時的に離れて休養を取り、心身の回復に努めましょう。
- 規則正しい生活: 食事をしっかり摂り、睡眠時間を確保するなど、規則正しい生活を送ることで、心身の安定を図ります。
2. 精神療法・カウンセリング
早期の精神療法は、急性ストレス症の回復に非常に有効とされています。
- 精神教育: 自分が経験している症状は、ストレスに対する自然な反応であり、決して異常なことではないと理解することが大切です。病気や症状について正しく学ぶことで、不安が軽減され、回復への見通しが立ちやすくなります。
- 支持的精神療法: 医師やカウンセラーが、患者さんの話を否定せず傾聴し、共感的に受け止めることで、安心感や安全感を確保します。つらい感情を言葉にすることで、心の整理が進みます。
- 認知行動療法(CBT)の要素: 不安を和らげる呼吸法やリラクセーション法を学ぶこと、またトラウマに関する否定的な思考を現実的なものに修正する練習を行うことが有効です。ただし、この段階での過度な「曝露療法」(トラウマの記憶に積極的に向き合うこと)は、かえって症状を悪化させる可能性もあるため、専門家の慎重な判断が必要です。
3. 薬物療法(必要に応じて)
症状が非常に強く、日常生活に著しい支障をきたしている場合や、精神療法だけでは十分な効果が得られない場合に、薬物療法が補助的に用いられることがあります。
- 抗不安薬: 強い不安やパニック症状、不眠に対して短期間使用されることがあります。依存性や離脱症状のリスクがあるため、漫然とした長期使用は避けるべきです。
- 睡眠薬: 著しい不眠がある場合に、短期間使用されることがあります。
急性ストレス症に特異的に有効であると証明されている薬はありませんが、症状に応じて医師が慎重に判断して処方します。自己判断で服用を中止せず、必ず医師の指示に従いましょう。
4. 周囲のサポート
ご家族や周囲の理解とサポートは、急性ストレス症の回復にとって大きな力となります。
- 傾聴と共感: ご本人の話に耳を傾け、感情に寄り添い、共感的な態度で接することが重要です。無理に励ましたり、安易なアドバイスをしたりするのではなく、「つらかったね」「大変だったね」といった言葉で、安心感を与えましょう。
- 無理強いをしない: トラウマに関する話題や、外出などを無理に強要しないようにしましょう。本人が話したい時に、話したい内容だけを聞くようにします。
- 安心できる環境を作る: 刺激が少なく、安心して休める環境を整えるように努めましょう。
- 専門家への受診を促す: ご本人が受診をためらっている場合は、そっと背中を押し、一緒に医療機関を探すなどのサポートも有効です。
5. 高崎市で利用できるサポート
高崎市にも、心の健康に関する様々な相談窓口や医療機関があります。
- 精神科・心療内科: まずは専門の医療機関を受診し、診断と治療方針について相談しましょう。高崎ステーションメンタルクリニックなど、市内には複数の心療内科があります。
- 高崎市障害者支援SOSセンター ばる~ん: 障害や心の不安、心配事の相談に乗ってくれる窓口です(高崎市総合保健センター2階)。電話相談も可能です。
- 高崎市役所 障害福祉課(相談支援担当): 精神保健福祉に関する相談を受け付けています。
- 全国共通「こころの健康相談統一ダイヤル」: 電話をかけた所在地の都道府県・政令指定都市が実施している公的な相談窓口につながります(0570-064-556)。
- 精神科訪問看護ステーション: 自宅での療養をサポートしてくれる訪問看護ステーションもあります。
まとめ:一時的な心の嵐は、きっと乗り越えられる。
急性ストレス症は、突如として訪れる心の嵐のようなものです。しかし、それは決してあなたの心が弱い証拠ではありません。むしろ、心が必死に自分を守ろうとしているサインなのです。この時期に適切なケアを受け、心身を休ませることで、症状は和らぎ、多くの場合は自然に回復へと向かいます。
重要なのは、一人で抱え込まずに、今、すぐ専門家や信頼できる人に相談することです。早期の介入が、未来のあなたを守ることにつながります。
もし、あなたが心の嵐の中にいると感じているなら、あなたは一人ではありません。高崎市にも、あなたの回復を心から応援し、サポートするために多くの手が差し伸べられています。希望を持って、この一時的な心の混乱を乗り越え、穏やかな日常を取り戻すための一歩を踏み出しましょう。