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気分の「ハイ」と「ロー」に翻弄されていませんか?双極症I型(躁うつ病)の理解とサポート
「数日間、眠らなくても平気で、次々にアイデアが浮かび、何でもできるような気がしたと思ったら、次の瞬間には何も手につかないほどの絶望感に襲われる」。
もし、あなた自身や大切な人が、このように極端な気分の波に苦しんでいるとしたら、それは双極症I型と呼ばれる精神疾患の症状かもしれません。かつて「躁うつ病」と呼ばれていたこの病気は、激しい躁(そう)状態と、抑うつ状態(うつ状態)を繰り返すことが特徴です。
この気分の波は、その人の意思でコントロールできるものではなく、日常生活、学業、仕事、人間関係に大きな影響を及ぼします。しかし、双極症I型は、適切な治療と支援によって、症状をコントロールし、安定した生活を送ることが十分に可能な病気です。
この記事では、双極症I型が具体的にどのような病気なのか、どんな症状が現れるのか、そして何よりも、ご本人やご家族がどのようなサポートを受けられるのかについて、分かりやすく解説していきます。正しい理解と適切なサポートが、気分の波を乗り越え、自分らしい人生を歩むための第一歩となるでしょう。
双極症I型って、どんな病気?
双極症I型は、**「躁(そう)状態」と「抑うつ状態(うつ状態)」**という、対照的な二つの極端な気分エピソードを繰り返す精神疾患です。この気分の波が、あたかもジェットコースターのように、生活を大きく揺さぶる特徴があります。
脳内の神経伝達物質(セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなど)のバランスの乱れが関係していると考えられており、遺伝的要因やストレス、生活リズムの乱れなどが発症に影響すると言われています。決して、性格の問題や、努力不足で発症するものではありません。
発症は10代後半から20代にかけて多く見られますが、診断に至るまで時間がかかることも少なくありません。これは、最初に抑うつ状態を経験し、うつ病と誤診されるケースがあるためです。
どんな症状が現れるの?
双極症I型の症状は、主に以下の二つの極端な気分エピソードとして現れます。
- 躁状態(そうじょうたい): 少なくとも1週間以上続き、日常生活に著しい支障をきたす、極端に気分が高揚した状態です。
- 気分の高揚・開放感: 理由もなく気分が非常に高揚し、開放的で自信にあふれているように感じます。
- 活動性の増加: 眠らなくても平気でいられる、次々と新しいことを始めようとする、じっとしていられないなど、活動量が著しく増えます。
- 多弁: 早口になり、次から次へと話題が変わり、話し続ける傾向があります。
- 思考の加速(観念奔逸): 頭の中で考えが次々と浮かび、まとまらないことがあります。
- 注意散漫: 集中力が低下し、一つのことに長く注意を向けるのが難しくなります。
- 衝動的な行動: 普段ならしないような無謀な投資、浪費、ギャンブル、性的な逸脱行為など、後先を考えない行動に走ることがあります。
- 誇大妄想: 自分には特別な能力がある、偉大な人間であるといった、現実離れした自信や妄想を抱くことがあります。
- 易刺激性: 些細なことでイライラしやすくなったり、怒りっぽくなったりすることもあります。
- 精神病症状: 重度の躁状態では、幻覚や妄想を伴うこともあります。
- 抑うつ状態(うつじょうたい): 少なくとも2週間以上続き、日常生活に著しい支障をきたす、気分の落ち込みが強い状態です。うつ病の症状と基本的に同じです。
- 気分の落ち込み・憂鬱感: 何をしていても気分が晴れず、常に憂鬱な状態が続きます。
- 興味や喜びの喪失: 以前は楽しめたことにも関心がなくなり、喜びを感じられなくなります。
- 食欲や睡眠の変化: 食欲不振や過食、不眠や過眠など、食欲や睡眠のパターンに変化が見られます。
- 倦怠感・疲労感: 体がだるく、何もする気力が湧かず、極度の疲労感を感じます。
- 思考力・集中力の低下: 物事を考えたり、集中したりすることが難しくなります。
- 無価値感・罪悪感: 自分を責めたり、価値のない人間だと感じたりすることがあります。
- 希死念慮: 「死んでしまいたい」と考えることがあります。
双極症I型では、特に躁状態の激しさが特徴で、日常生活や社会生活に大きな影響を及ぼし、入院が必要になるケースも少なくありません。
双極症I型の診断と大切なこと
双極症I型の診断は、専門の医療機関(精神科、心療内科)で行われます。診断には、問診、症状の経過、精神状態の評価などが総合的に用いられます。
- 詳細な問診と症状の確認: ご本人やご家族から、気分の波の有無とパターン、それぞれの気分エピソードの期間や強度、日常生活への影響などを詳しく聞き取ります。特に躁状態のエピソードが過去にあったかどうかが重要です。
- 精神状態の評価: 医師がご本人と面談し、思考、感情、行動の様子を詳しく観察します。
- 身体診察・検査: 症状が他の病気(甲状腺機能障害や薬物の影響など)によるものでないかを確認するため、血液検査などが行われることもあります。
大切なのは、双極症I型は症状が複雑で、特に最初に抑うつ状態だけで受診した場合、うつ病と誤診されることがある点です。過去の躁状態のエピソードを正確に医師に伝えることが、適切な診断に繋がります。ご家族からの客観的な情報も、診断の重要な手がかりとなります。
双極症I型のサポート:症状をコントロールし、安定した生活へ
双極症I型は、適切な治療と支援によって、症状をコントロールし、安定した生活を送ることが十分に可能な病気です。支援は、医療的なものだけでなく、心理社会的、社会復帰支援など、多岐にわたります。
1. 薬物療法
双極症I型の治療の中心は、薬物療法です。気分の波を安定させることが重要であるため、主に以下の薬が用いられます。
- 気分安定薬: 躁状態とうつ状態、両方の気分変動を抑える働きがあります。リチウム、バルプロ酸、ラモトリギンなどが代表的です。
- 非定型抗精神病薬: 躁状態の症状を抑えるために用いられることがあります。一部のものは、うつ状態や気分の安定にも効果を発揮します。
- 抗うつ薬: うつ状態が強い場合に処方されることがありますが、単独での使用は躁転(うつ状態から躁状態へ転じること)のリスクを高める可能性があるため、気分安定薬と併用されることが一般的です。
医師の指示に従い、決められた量を決められた時間に服用することが非常に大切です。症状が落ち着いてからも、再発を防ぐために服薬を続ける「維持療法」が必要となります。副作用が気になる場合は、自己判断で中断せずに、必ず医師に相談しましょう。
2. 心理社会的支援(精神療法・カウンセリング)
薬物療法と並行して、心理社会的支援も回復に欠かせません。
- 精神教育: 病気についてご本人やご家族が正しく理解するための情報提供を行います。病気のメカニズム、症状、治療法、再発予防策などを学ぶことで、病気への理解が深まり、治療への主体的な参加を促します。
- 認知行動療法(CBT): 気分の波に伴う思考の偏りや、ストレスへの対処法を学び、症状の悪化を防ぐのに役立ちます。
- 対人関係・社会リズム療法(IPSRT): 生活リズムの乱れが気分の波に影響を与えることに着目し、安定した生活リズムの確立と、人間関係の問題への対処法を学びます。
- 家族への心理教育: ご家族が病気への理解を深め、ご本人への接し方(例えば、躁状態の時に不用意に刺激しないなど)、ご家族自身のストレスケアについて学ぶことができます。家族のサポートは、ご本人の回復にとって非常に大きな力となります。
3. 生活習慣の改善
規則正しい生活リズムを維持することは、気分の波を安定させる上で非常に重要です。
- 十分な睡眠: 睡眠不足は躁転の引き金となることがあるため、規則正しい時間に十分な睡眠をとることが大切です。
- 規則正しい食事: バランスの取れた食事を規則的に摂ることも、体調管理に繋がります。
- 適度な運動: 適度な運動は、気分の安定やストレス軽減に役立ちますが、過度な運動は躁状態を悪化させる可能性もあるため、医師と相談しながら行いましょう。
- ストレス管理: ストレスを上手に管理する方法(リラクゼーション、趣味、休息など)を身につけることが、症状の悪化や再発予防に繋がります。
4. 社会復帰支援と生活の場へのサポート
症状が安定してくると、社会復帰や自立した生活を目指すための支援が重要になります。
- デイケア・作業療法: 医療機関や福祉施設で行われるプログラムで、規則正しい生活リズムの獲得、作業活動を通じた集中力の向上、人との交流、社会参加への準備などを行います。
- 就労支援: ハローワークの専門援助部門、地域障害者職業センター、就労移行支援事業所など、病気の特性を理解した上で、仕事を見つけ、職場で長く働き続けられるようサポートする機関があります。高崎市にも、ハローワーク高崎や群馬県発達障害者支援センターなど、様々な支援機関がありますね。
- ピアサポート: 同じ病気を経験した仲間(ピアサポーター)との交流を通して、体験を分かち合い、支え合う活動です。孤独感を軽減し、回復への希望を持つことにつながります。
5. 再発予防と早期発見
双極症I型は、症状が改善しても再発する可能性が高い病気です。再発を防ぐためには、継続的な治療と、ご本人や周囲が再発のサインを早期に察知することが重要です。
- 気分安定ノート/アプリ: 自分の気分の変化、睡眠時間、活動量、服薬状況などを記録することで、気分の波のパターンや再発のサインに気づきやすくなります。
- 再発サインの把握: 医師や家族と共に、自分にとっての躁状態やうつ状態の初期サイン(例:不眠、イライラ、多弁、食欲の変化など)を把握しておくことが大切です。
- 定期的な受診: 症状が安定していても、定期的に医療機関を受診し、医師と相談しながら治療を続けることが再発予防につながります。
まとめ:気分の波は乗り越えられる。希望を持って、自分らしい人生を
双極症I型は、激しい気分の波によって本人や周囲を苦しめる病気ですが、適切な治療と継続的な支援があれば、症状をコントロールし、自分らしい生活を送ることが十分に可能です。気分の波に翻弄されることなく、安定した日々を送ることは夢ではありません。
重要なのは、病気を恐れずに正しい知識を持ち、一人で抱え込まずに、専門家や支援機関に頼ることです。
もし、ご自身やご家族、身近な方で双極症I型の症状に心当たりのある方がいる場合は、早めに精神科や心療内科を受診することをお勧めします。早期の診断と介入が、回復への道を開く鍵となります。
病気と共に生きる中で、様々な困難に直面することもあるかもしれません。しかし、あなた一人ではありません。多くの支援者が、あなたの回復を心から応援し、サポートするためにここにいます。希望を持って、回復への一歩を踏み出しましょう。