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統合失調症とは?症状、原因、そして回復への道
統合失調症は、思考、感情、知覚、行動といった様々な精神機能に影響を及ぼし、現実の解釈に困難をきたす精神疾患です。かつては「精神分裂病」と呼ばれていましたが、病気の誤解や偏見をなくすため、2002年に「統合失調症」へと名称が変更されました。この病名は、「情報が統合されにくい状態」を表しており、脳の機能に何らかの偏りが生じていることを示唆しています。
統合失調症は、幻覚や妄想といった非現実的な体験だけでなく、意欲の低下や感情の平板化など、幅広い症状を呈するのが特徴です。発症は10代後半から30代に多いとされており、特に思春期から青年期にかけて発症することが少なくありません。
統合失調症の主な症状
統合失調症の症状は、「陽性症状」と「陰性症状」、「認知機能障害」の大きく3つのカテゴリーに分けられます。
1. 陽性症状(通常はないものが現れる症状)
現実には存在しないものを体験したり、現実とは異なることを確信したりする症状です。治療によって改善しやすいとされています。
- 幻覚(特に幻聴): 最もよく見られる症状で、実際には聞こえない声が聞こえる、誰もいないのに話し声が聞こえる、自分の悪口が聞こえる、指示する声が聞こえる、といった体験をします。幻視、幻臭、幻味、体感幻覚なども起こり得ます。
- 妄想: 現実にはありえないことを強く確信する状態です。
- 被害妄想: 誰かに嫌がらせを受けている、監視されている、毒を盛られている、といった内容。
- 関係妄想: テレビやラジオのニュース、他人の会話などが、自分に関係していると思い込む。
- 思考伝播: 自分の考えていることが他人に知られている、筒抜けになっていると思い込む。
- 思考奪取: 自分の考えが誰かに抜き取られた、盗まれたと思い込む。
- 思考察知: 他人に自分の心を読まれている、察知されていると思い込む。
- 妄想気分: 周囲の雰囲気が不気味で、何か恐ろしいことが起こる前触れだと漠然と感じる。
- 思考障害・まとまりのない会話: 考えがまとまらず、話があちこちに飛んでしまったり、論理的なつながりのない会話をしたりします。聞いている側には理解しにくい内容になります。
- 興奮・奇異な行動: 興奮して落ち着きがなくなったり、周囲から見て不自然な行動(独り言、奇妙な身振りなど)をしたりすることがあります。
2. 陰性症状(通常あるものが失われる症状)
感情や意欲、思考の広がりなどが失われる症状です。陽性症状が治まった後に現れることが多く、回復期においても残ることがあり、社会生活への適応に影響を与えやすいとされています。
- 感情の平板化: 感情の起伏が乏しくなり、表情が乏しくなる、喜怒哀楽が分かりにくくなるといった状態です。
- 意欲の低下(アパシー): 何事にも興味や関心がなくなり、自発的な行動が減ります。趣味や仕事、身の回りのこと(入浴、着替えなど)にも意欲が湧かなくなります。
- 思考の貧困: 考えが深まらず、会話の内容が乏しくなる、抽象的な思考が難しいといった状態です。
- 社会的引きこもり: 他者との交流を避けるようになり、家に閉じこもりがちになります。
- 発語の減少: 話す量が減り、口数が少なくなることがあります。
3. 認知機能障害
注意、記憶、情報処理、計画性、問題解決能力といった認知機能に困難が生じます。陰性症状と同様に、社会生活への適応に大きく影響することがあります。
- 注意力の低下: 集中力が続かない、複数のことに同時に注意を向けるのが難しい。
- 記憶力の低下: 新しい情報を覚えにくい、以前に覚えたことを思い出せない。
- 実行機能の障害: 計画を立てる、順序立てて物事を進める、問題を解決するといった能力が低下する。
- 情報処理速度の低下: 情報の理解や判断に時間がかかる。
これらの症状の現れ方は、発症からの期間や治療の状況によって変化します。
統合失調症の原因
統合失調症の原因は一つに特定されていませんが、いくつかの要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
- 遺伝的要因: 統合失調症になりやすい体質(脆弱性)が遺伝する可能性が指摘されています。ただし、遺伝子だけで発症が決まるわけではなく、あくまで「なりやすさ」が遺伝するに過ぎません。一卵性双生児の一方が発症した場合でも、もう一方が発症する確率は50%程度とされています。
- 脳の機能・構造の偏り: 脳内の神経伝達物質(特にドーパミン)のバランスの乱れや、脳の特定の部位の構造や機能に偏りが生じていることが指摘されています。最近の研究では、グルタミン酸やGABAといった他の神経伝達物質の関与も注目されています。
- 環境要因: ストレスの多い環境(学校や職場での人間関係、経済的な問題、家族間の葛藤など)、幼少期のトラウマ、都市部での生活、特定の薬物使用(大麻など)なども、発症のリスクを高める要因と考えられています。
- 周産期の要因: 妊娠中や出産時の合併症(低酸素状態など)が発症リスクを高める可能性も指摘されています。
これらの要因が複数重なり合うことで、発症に至ると考えられています。
統合失調症の治療と回復への道
統合失調症は、適切な治療と支援を受けることで、症状をコントロールし、社会生活を送ることが十分に可能な病気です。早期発見と早期治療が、回復を早め、再発を防ぐために非常に重要となります。
1. 薬物療法(薬の治療)
- 抗精神病薬: 統合失調症の治療の中心となるのが、抗精神病薬です。幻覚や妄想といった陽性症状を抑える効果が高く、脳内の神経伝達物質のバランスを整えることで症状の安定を図ります。最近では、副作用が少なく、飲みやすいタイプの薬も増えています。
- その他の薬: 不安や不眠がある場合には抗不安薬や睡眠導入剤が併用されることもあります。
- 服薬継続の重要性: 症状が改善しても、自己判断で服薬を中止すると再発のリスクが高まります。医師の指示に従い、根気強く服薬を続けることが大切です。
2. 心理社会的治療(リハビリテーション)
薬物療法と並行して行われることで、症状の改善や社会適応の向上を目指します。
- 心理教育: 病気について正しく理解し、症状への対処法、服薬の重要性、再発のサインなどを本人や家族が学ぶプログラムです。病気への理解を深めることで、治療への主体的な参加を促します。
- 認知行動療法(CBT): 幻覚や妄想に対する苦痛を軽減したり、陰性症状や認知機能の困難によって生じる行動の問題を改善したりすることを目指します。思考パターンや行動パターンを調整していくことで、より適応的な対処法を身につけます。
- SST(ソーシャルスキルトレーニング): 日常生活や対人関係に必要なスキル(会話、自己主張、ストレス対処など)を、ロールプレイングなどを通して実践的に学ぶプログラムです。社会参加への自信を取り戻すことを目指します。
- 作業療法・デイケア: 生活リズムの安定、意欲の向上、対人交流の機会の提供などを目的として行われます。創作活動、スポーツ、レクリエーションなどを通じて、社会参加の準備を進めます。
- 就労支援: 症状が安定した後には、ハローワーク、地域障害者職業センター、就労移行支援事業所などと連携し、一般企業への就職や、障害者雇用枠での就職をサポートします。
3. 家族支援
統合失調症は家族にも大きな影響を与えるため、家族への支援も非常に重要です。家族会への参加や、家族向けの心理教育を通じて、病気への理解を深め、適切な対応を学ぶことで、家族全体の負担を軽減し、本人を支える力を高めます。
回復へのメッセージ
統合失調症は、決して珍しい病気ではありません。そして、多くの人が適切な治療と支援を受けることで、症状をコントロールし、自分らしい生活を取り戻しています。
大切なのは、症状に気づいたら、ためらわずに専門医(精神科、心療内科)に相談することです。早期の介入が、その後の回復に大きく影響します。また、病気と診断された後も、周囲の理解とサポートを得ながら、焦らず、ご自身のペースで治療とリハビリテーションに取り組むことが、回復への着実な一歩となります。
希望を捨てずに、病気と向き合い、自分らしい生活を取り戻しましょう。