ブログ
2025-07-26 12:51:00
コミュニケーション症群とは?言葉と心のつながり
私たちの日常生活において、コミュニケーションは欠かせないものです。しかし、言葉やその使い方、あるいは言葉以外の表現に困難を抱えることで、社会生活や学業、職業に支障が生じることがあります。これらの状態を総称して「コミュニケーション症群」と呼びます。
DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)では、「神経発達症群」の一部として分類され、主に以下の5つのタイプに分けられます。それぞれのタイプによって、症状の現れ方や必要な支援が異なります。
コミュニケーション症群の主な種類と症状
- 言語症(Language Disorder) 言葉を理解したり、言葉を使って表現したりすることに困難がある状態です。
- 症状の例:
- 同年代の子どもに比べて語彙が著しく少ない。
- 文法的に正しくない文章を話す、あるいは文章を組み立てるのが苦手。
- 思ったことを順序立てて話すのが難しい。
- 複雑な指示や比喩表現の理解が難しい。
- 簡単な言葉や短い文章を使うことが多い。
- 語音症(Speech Sound Disorder) 言葉を正しく発音することに困難があり、周囲が聞き取りにくい状態です。身体的な問題(聴覚障害や構音器官の異常など)が原因ではない場合に診断されます。
- 症状の例:
- 特定の子音や母音の発音が正しくできない(例:「サカナ」が「タカナ」になる)。
- 言葉が不明瞭で、聞き返されることが多い。
- 自分の発音に自信がなく、話すことを避けるようになる。
- 小児期発症流暢症(吃音)(Childhood-Onset Fluency Disorder (Stuttering)) 言葉を流暢に発することが難しく、スムーズな会話ができない状態を指します。いわゆる「吃音(きつおん)」と呼ばれるものです。
- 症状の例:
- 音や音節の繰り返し(連発):例:「こ、こ、こども」
- 音の引き伸ばし(伸発):例:「こーーーーども」
- 言葉が出にくくなる、詰まる(難発、ブロック):例:「・・・・・・(沈黙の後)こども」
- 話すことへの不安や恐怖から、特定の言葉や状況を避ける。
- 話す際に、まばたきや体の動きなどの随伴運動が見られることがある。
- 社会的(語用論的)コミュニケーション症(Social (Pragmatic) Communication Disorder) 言葉を扱う基礎的な能力(語彙や文法など)は問題ないにもかかわらず、社会的な状況に応じたコミュニケーションに困難が生じる状態です。ASD(自閉スペクトラム症)と似た症状を持つこともありますが、ASDに診断基準を満たさない場合に診断されます。
- 症状の例:
- 状況や相手に合わせて話し方を変えるのが難しい(例:目上の人にため口で話してしまう)。
- 会話のルール(相槌を打つ、話す順番を守る、話題を変えるタイミング)を守るのが難しい。
- 冗談や比喩、皮肉、曖昧な表現を文字通りに受け取ってしまう。
- 非言語的なコミュニケーション(表情、ジェスチャー、アイコンタクト)を読み取ったり、適切に使ったりするのが苦手。
- 挨拶や情報共有など、社会生活に必要なコミュニケーションがうまく取れない。
- 特定不能のコミュニケーション症群(Unspecified Communication Disorder) 上記のいずれかのコミュニケーション症群の診断基準を完全に満たさないものの、コミュニケーションに臨床的に有意な支障がある場合に用いられます。
コミュニケーション症群の原因
コミュニケーション症群の原因は、単一ではなく複合的な要因が関与していると考えられています。
- 遺伝的要因: 家族内での発症がみられることがあります。
- 脳機能の偏り: 言語やコミュニケーションに関連する脳の機能に、何らかの偏りや発達の遅れがあると考えられています。
- 環境要因: 発達過程での言語刺激の不足や、コミュニケーションを阻害するような環境も影響する可能性があります。
- 他の神経発達症との併存: 知的発達症、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)など、他の神経発達症と併存することが多くあります。特に社会的(語用論的)コミュニケーション症は、ASDの診断基準から社会性・コミュニケーションの困難だけが抽出されたような概念と言えます。
診断と支援・治療
コミュニケーション症群の診断は、小児科医、児童精神科医、言語聴覚士、臨床心理士などの専門家が、発達の経過や詳細な問診、各種検査(言語発達検査、コミュニケーション評価スケールなど)を通じて総合的に行われます。
支援や治療は、それぞれの症状と個人のニーズに合わせて、多角的に行われます。
- 言語聴覚療法(ST): 各コミュニケーション症群の核となる支援です。
- 言語症: 語彙の増強、文法理解と表現の練習、物語の組み立て方など。
- 語音症: 正しい発音のための口の動きや舌の練習、発音訓練。
- 小児期発症流暢症(吃音): 発話の流暢さを高めるための訓練、発話に伴う不安の軽減、環境調整のアドバイスなど。
- 社会的(語用論的)コミュニケーション症: 社会的な状況に応じたコミュニケーションスキルの習得、非言語的サインの理解、会話のルール学習など。
- 心理療法・カウンセリング: コミュニケーションの困難から生じる二次的な問題(不安、抑うつ、自尊心の低下、対人関係の悩みなど)に対して有効です。特に認知行動療法などは、コミュニケーションへの不安やネガティブな思考パターンを修正するのに役立ちます。
- 教育的支援: 学校では、個別の教育支援計画を立て、コミュニケーションの特性に配慮した学習環境の提供や指導が行われます。視覚支援ツールの活用や、分かりやすい言葉での指示など、具体的な工夫が重要です。
- ソーシャルスキルトレーニング(SST): 対人関係のスキルや社会的な状況での適切な振る舞いを学ぶためのプログラムです。ロールプレイングなどを通じて実践的な練習を行います。
- 環境調整と周囲の理解: 周囲の人々(家族、教師、友人など)がコミュニケーション症群への理解を深め、適切な配慮を行うことが非常に重要です。分かりやすい言葉で話す、ゆっくり話す、視覚的な情報も加える、話す機会を多く作る、といった工夫が役立ちます。
コミュニケーション症群は、早期に発見し、適切な支援を継続することで、コミュニケーション能力の向上が期待でき、社会生活をより豊かに送ることが可能になります。もしお子さんの言葉やコミュニケーションに気になる点がある場合は、一人で抱え込まず、早めに専門機関に相談してみましょう。