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2025-07-26 12:46:00

注意欠如・多動症(ADHD)とは?特性と向き合い、可能性を広げる

**注意欠如・多動症(ADHDは、生まれつきの脳機能の特性による神経発達症(発達障害)**の一つです。主に「不注意」「多動性」「衝動性」という3つの特性がみられ、これらの特性が、学業、仕事、対人関係、日常生活などの様々な場面で困難を引き起こします。

ADHDは子どもだけの問題だと考えられがちですが、実はその特性の多くは成人期まで持ち越されることが分かっています。大人になってから、仕事や家庭生活で困難に直面し、初めてADHDの診断を受けるケースも少なくありません。

ADHDの主な特性

ADHDの特性は、以下に挙げる「不注意」「多動性」「衝動性」の3つの要素に分けられます。ただし、これらの特性の現れ方や程度は、一人ひとり大きく異なります。

1. 不注意(集中力の維持が難しい)

  • 細かいミスが多い(ケアレスミス)
  • 集中力が続かず、すぐに気が散ってしまう
  • 忘れ物や物をなくすことが多い
  • 約束や期日を守れない、遅刻が多い
  • 計画を立てたり、順序立てて物事を進めたりするのが苦手
  • 長時間の精神的な努力を要する作業を嫌う
  • 直接話しかけられても、聞いていないように見えることがある
  • 途中で飽きて、物事を最後までやり遂げられない

2. 多動性(落ち着きのなさ)

  • じっとしていられない、ソワソワする
  • 手足をもぞもぞ動かす、貧乏ゆすりをする
  • 椅子に座っていても、立ち歩いてしまう
  • 過度にしゃべり続ける
  • 静かに遊ぶことや、余暇活動におとなしく参加することが難しい

3. 衝動性(思いついたらすぐに行動してしまう)

  • 質問が終わらないうちに、出し抜けに答えてしまう
  • 順番を待つのが苦手
  • 他の人の会話やゲームに割り込んでしまう
  • 感情のコントロールが難しく、カッとなりやすい
  • 衝動買いや無謀な行動に出てしまうことがある
  • 熟考せずに行動してしまうため、後で後悔することが多い

成人期ADHDの特性の現れ方

子どもの頃に比べて、大人のADHDでは多動性が目立たなくなる一方で、不注意衝動性が形を変えて生活上の困難として現れることが多いです。

  • 不注意仕事でのケアレスミス、期限忘れ、会議に集中できない、資料の整理が苦手、複数のタスクを同時にこなせない、時間管理ができないなど。
  • 多動性体の動きとしてではなく、心の中でソワソワする感じ、常に何かしていないと落ち着かない、過剰なおしゃべり、多弁として現れることがあります。
  • 衝動性会議中の不用意な発言、衝動買い、感情の爆発、人間関係でのトラブル、金銭管理の困難など。

これらの特性のために、仕事での評価が上がらなかったり、人間関係で孤立したり、自己肯定感が低下してうつ病や不安障害などの二次障害を併発するケースも少なくありません。

ADHDの原因

ADHDの詳しい原因はまだ完全には解明されていませんが、これまでの研究から、生まれつきの脳機能の特性が大きく関係していると考えられています。

  • 脳の構造と機能の偏り特に、前頭前野と呼ばれる脳の部位の機能調整に偏りがあることが指摘されています。前頭前野は、思考、判断、注意、計画、行動のコントロールといった「実行機能」を司る重要な役割を担っています。ADHDでは、この部分の働きが非定型であることが、不注意や多動性、衝動性につながると考えられています。
  • 神経伝達物質の不足脳内のドーパミンノルアドレナリンといった神経伝達物質の働きが関係しているという説も有力です。これらの物質は、情報伝達や意欲、注意、集中力などに関与しており、ADHDのある人ではこれらの神経伝達物質の量が少なかったり、その働きが効率的でなかったりすることで、情報伝達がうまくいかないと考えられています。

ADHDは「育て方が悪いからなる」といったものではなく、親のしつけや環境が直接的な原因ではありません。遺伝的要因が大きく関与しており、遺伝的傾向に加えて、周産期の問題(早産、低出生体重など)や環境要因が影響することもあると言われています。

ADHDの診断と治療

ADHDの診断は、小児科医、児童精神科医、精神科医などが、発達の経過、問診、症状の現れ方、行動観察、各種検査(心理検査、知能検査など)を通じて総合的に行われます。診断基準としては、国際的なものとしてDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル)やICD-11(国際疾病分類)が用いられます。

ADHDの治療は、主に「心理社会的治療(非薬物療法)」と「薬物療法」の二本柱で行われます。一人ひとりの特性や困り感に合わせて、これらのアプローチが組み合わせて用いられます。

1. 心理社会的治療(非薬物療法)

  • 環境調整本人の特性に合わせて、生活や学習、仕事の環境を工夫することです。例えば、気が散りやすい場合は静かな場所で作業する、忘れ物が多い場合はチェックリストを活用する、整理整頓が苦手な場合は物の定位置を決める、といった具体策を講じます。
  • 行動療法望ましい行動を増やし、望ましくない行動を減らすための支援です。褒めること(ポジティブな強化)を積極的に取り入れたり、行動のきっかけや結果を分析して改善を図ったりします。子どもには「トークンエコノミー法」などが用いられることもあります。
  • 認知行動療法(CBT不注意や衝動性から生じるネガティブな思考パターンや、それによって引き起こされる感情、行動を客観的に見つめ、より適応的な思考や行動に修正していくことを目指します。時間管理、計画立案、衝動性のコントロールなどのスキルを学ぶことも含まれます。
  • ソーシャルスキルトレーニング(SST対人関係のスキルや社会的なルールを学び、実践的な練習をすることで、コミュニケーション能力や社会適応能力の向上を目指します。
  • ペアレントトレーニング: ADHDのある子どもを持つ保護者が、子どもの特性を理解し、適切な接し方や具体的な対処法を学ぶプログラムです。
  • カウンセリング自身の特性を理解し、自己肯定感を高め、日常生活の困難への対処法を模索するための支援です。

2. 薬物療法

ADHDの症状を和らげるための薬物もいくつか開発されています。これらの薬は、脳内の神経伝達物質(ドーパミンやノルアドレナリンなど)の働きを調整することで、不注意、多動性、衝動性の症状を改善する効果が期待できます。

  • 主に、中枢神経刺激薬(メチルフェニデート塩酸塩、アンフェタミン類など)や、非中枢神経刺激薬(アトモキセチン、グアンファシンなど)があります。
  • 薬物療法は、医師が患者さんの年齢、症状、健康状態などを考慮して慎重に処方し、効果や副作用を定期的に評価しながら進められます。

ADHDの治療は、薬物療法だけで完結するものではなく、心理社会的治療と組み合わせて行うことで、より効果的な症状の改善と生活の質の向上が期待できます。

ADHDと向き合うために

ADHDの特性は、その人の「性格」や「怠け癖」ではなく、脳の機能特性によるものです。そのため、ご自身や周囲の人が「なぜできないんだろう」と悩んだり、責めたりする必要はありません。

大切なのは、自身の特性を正しく理解し、その特性から生じる困難に対して適切な対処法を学び、必要に応じて周囲のサポートを得ることです。早期に診断を受け、適切な支援や治療を開始することで、特性を強みとして活かし、より充実した社会生活を送ることが可能になります。

もし、ご自身やご家族、身近な人にADHDの特性が疑われる場合は、一人で抱え込まず、専門機関(精神科、心療内科、発達外来など)に相談してみましょう。

 

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