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急性ストレス症(ASD)とは?突然の衝撃と心の初期反応
もしあなたが、非常に恐ろしい、または衝撃的な出来事を経験した後、その出来事の記憶が頭から離れなかったり、現実感がなかったり、強い不安や緊張が続いていたりするなら、それは「急性ストレス症(ASD:Acute Stress Disorder)」かもしれません。これは、PTSD(心的外傷後ストレス症)の前段階とも言える病態で、外傷的出来事を体験してから3日間から1ヶ月以内に発症する一時的な精神的な反応です。
急性ストレス症は、突然の出来事に心が対処しきれずに混乱している状態であり、決してあなたの弱さを示すものではありません。適切な対処とサポートを受けることで、症状を軽減し、PTSDへの移行を防ぎ、回復を促すことが可能です。
急性ストレス症の主な症状と特徴
急性ストレス症は、特定の外傷的出来事への曝露があった後に発症します。この曝露は、実際に体験する、目撃する、親しい人に起こったと聞く、あるいは仕事などで繰り返し外傷的出来事に接する、といった形で起こります。
その後、以下の5つのカテゴリーのうち、9つ以上の症状が3日間から1ヶ月以内に現れることが特徴です。
- 侵入症状:
- 苦痛な出来事の記憶が繰り返し、侵入的に思い出す(フラッシュバックなど)。
- 出来事に関する反復的で苦痛な夢を見る。
- 出来事に関連する内的なキュー(思考や感情)や外的なキュー(場所や人)に曝露された際に、強い精神的苦痛を感じる。
- 陰性気分:
- ポジティブな感情を感じることができない。
- 解離症状:
- 麻痺した、孤立した、または感情反応がないという主観的感覚。
- 自分の周囲に対する注意の減弱(例:「ぼーっとしている」)。
- 現実感消失(周囲が非現実的に感じられる)。
- 離人症(自分が自分ではないように感じられる)。
- 解離性健忘(出来事の重要な側面が思い出せない)。
- 回避症状:
- 外傷的な出来事に関連する苦痛な記憶、思考、感情の回避。
- 外傷的な出来事を思い出させるような人、場所、会話、活動、物、状況の回避。
- 覚醒度の変化:
- 睡眠障害(寝つきが悪い、夜中に目が覚める、満足感のない睡眠)。
- 易刺激性または怒りの爆発(些細なことでイライラしたり、怒りが抑えられなくなったりする)。
- 過剰な警戒心(常に危険がないか周囲を警戒している)。
- 驚愕反応の増強(大きな音や突然の刺激に過剰にびっくりする)。
- 集中困難。
これらの症状は、臨床的に著しい苦痛を引き起こし、社会的、職業的、またはその他の重要な領域における機能に障害をもたらします。
PTSDとの違い
急性ストレス症とPTSDは症状が類似していますが、最も大きな違いは症状の持続期間です。
- 急性ストレス症 (ASD):外傷的出来事の直後から1ヶ月以内に発症し、症状が3日間から1ヶ月間持続します。
- 心的外傷後ストレス症 (PTSD):症状が1ヶ月以上持続する場合に診断されます。ASDからPTSDへ移行することもありますが、外傷的出来事から数ヶ月、あるいは何年も経ってからPTSDが発症することもあります。
急性ストレス症の段階で適切なケアを受けることで、PTSDへの移行を防ぎ、早期の回復を目指すことができます。
急性ストレス症の原因
急性ストレス症は、特定の外傷的出来事を経験することが直接的な原因となります。
- 外傷的出来事の例:
- 自然災害(地震、津波、台風など)
- 事故(交通事故、火災、航空機事故など)
- 暴力(暴行、性的暴行、虐待、いじめなど)
- 戦争、テロ、紛争
- 重い病気や大手術、集中治療室での体験
- 大切な人の突然の死、あるいは惨い死に遭遇すること
- 目撃者として、他人が外傷的出来事を経験するのを見ること
外傷的出来事を経験した人すべてが急性ストレス症を発症するわけではありません。発症には、以下のような要因が関与すると考えられています。
- 外傷体験の性質: 出来事の深刻さ、予期せぬ出来事であったか、他者からの意図的な加害であったか、本人がコントロールできなかったかなど。
- 個人の脆弱性: 過去のトラウマ体験、精神疾患の既往、ストレス耐性など。
- 社会的サポート: 出来事後に家族や友人、社会からの支援が得られたかどうか。
急性ストレス症の診断と治療
急性ストレス症は、早期に適切な診断と治療を受けることで、症状が改善し、PTSDへの移行を防ぐことができる病気です。
診断は、精神科医や心療内科医、または臨床心理士などの専門家が、外傷的出来事の有無、症状の詳細な経過、日常生活への影響などを詳細に問診し、国際的な診断基準(DSM-5など)に基づいて総合的に判断します。身体的な病気が症状の原因ではないことを確認するために、身体検査が行われることもあります。
治療は、主に「精神療法(カウンセリング)」と「薬物療法」が検討されます。
1. 精神療法(カウンセリング)
急性ストレス症の治療において、最も重要とされているのが精神療法です。
- 心理教育と支持的精神療法:
- まず、急性ストレス症という状態について説明し、症状が異常な出来事への正常な反応であることを理解してもらいます。
- 患者さんの苦痛に共感し、安心できる環境を提供することが非常に重要です。話を聞いてもらい、感情を共有することで、症状の緩和が見られることがあります。家族や親しい人による共感的なサポートも重要です。
- トラウマ焦点化認知行動療法(TF-CBT):
- PTSDに有効性が高いとされているこの療法の一部は、急性ストレス症の治療にも応用されます。外傷体験の記憶や感情に段階的に向き合い、認知の歪みを修正していくことを目指します。ただし、急性期であるため、無理なく慎重に進める必要があります。
- リラクセーション法や呼吸法などを学び、強い不安や緊張を自分でコントロールするスキルを身につけます。
2. 薬物療法
精神療法と併用されることで、症状の管理に役立つことがあります。
- 抗不安薬: 強い不安や不眠がある場合に、一時的に症状を和らげるために頓服として使用されることがあります。ただし、依存性のリスクがあるため、短期間の使用に限定されることが多いです。
- 睡眠導入剤: 不眠がひどく、休養が取れない場合に短期間処方されることがあります。
- 抗うつ薬(SSRIなど): 全体的な不安や抑うつ症状が強い場合に検討されることがありますが、急性期には主に支持療法と短期的な対症療法が優先されます。
安全・安心な環境の提供が最も重要であり、ストレスのもととなった環境から離れることが可能な場合は、そのことも検討されます。
急性ストレス症とオンラインカウンセリング:Zoomの活用
近年、オンラインでのメンタルヘルスサポートが急速に普及しており、Zoomなどのビデオ通話ツールを用いたオンラインカウンセリングは、急性ストレス症を持つ方々にとって非常に有効な選択肢となっています。
- 通院の負担軽減: 衝撃的な出来事を経験した後で心身が疲弊している状態では、外出して医療機関を受診すること自体が大きな負担となることがあります。オンラインカウンセリングであれば、自宅など慣れた安心できる環境からセッションに参加できるため、通院の心理的・物理的ハードルが大幅に下がります。これにより、症状の初期段階から迅速にカウンセリングを開始し、治療の継続率向上にも貢献します。
- 安心できる環境でのセッション: 医療機関やカウンセリングルームという新しい場所は、不安を感じやすい状態の方にとって、さらなる緊張を引き起こす可能性があります。オンラインであれば、ご自宅という最もリラックスできる空間で、安心して心を開き、体験した出来事や感情について話すことができます。
- 柔軟なスケジュール調整: 移動時間が不要なため、自身の体調や日課に合わせてより柔軟な時間設定が可能です。心身の疲労感が強い時でも、無理なくカウンセリングを受けられるため、治療の中断リスクが低減されます。
- プライバシーの確保: クリニックの待合室で他の患者さんと顔を合わせることに抵抗を感じる方もいらっしゃるかもしれません。オンラインカウンセリングは自宅からアクセスできるため、プライバシーが確保されやすく、安心してデリケートな問題を話すことができます。
- 感情の共有と共感: 出来事の衝撃が大きく混乱している時期には、誰かに話を聞いてもらい、共感してもらうことが何よりも重要です。オンラインでも、カウンセラーが共感的な姿勢で話を聞き、安心感を提供することができます。
Zoomオンラインカウンセリングを始める際の注意点
Zoomを使ったオンラインカウンセリングは多くのメリットがありますが、利用にあたってはいくつかの注意点もあります。
- 安定したインターネット環境: 通信が不安定だと、音声や映像が途切れ、カウンセリングの妨げになります。可能な限り、安定したWi-Fi環境や有線LAN環境を整えましょう。
- プライバシーが確保された静かな空間: カウンセリングは個人的でデリケートな内容を話す場です。セッション中に集中できるよう、家族や他人に話が聞かれないような、静かでプライベートな空間を確保することが非常に重要です。
- 使用デバイスの準備と操作の確認: パソコン、タブレット、スマートフォンなど、使いやすいデバイスを用意し、事前にZoomアプリのインストールと、マイク、カメラ、スピーカーの動作確認をしておくと安心です。
- 緊急時の対応確認: 症状が重く、混乱が強い場合、自傷行為や希死念慮がある場合など、緊急性が高い状況ではオンラインカウンセリングだけでは不十分な場合があります。緊急時にどのような対応をしてもらえるのかを、事前にカウンセリング機関やカウンセラーに確認しておくことが大切です。また、医師の診察や薬物療法が必要な場合は、対面での医療機関の受診を強くお勧めします。
急性ストレス症と向き合い、早期回復を目指すために
急性ストレス症は、強いストレス反応ではありますが、適切な時期に適切なケアを受けることで、症状の慢性化やPTSDへの移行を防ぐことができる病気です。
「時間が解決してくれるだろう」と安易に考えず、症状に気づいたら、ためらわずに専門医(精神科、心療内科)やカウンセラーに相談することから始めましょう。精神科の診察、精神療法(特に心理教育と支持的精神療法)、必要に応じた薬物療法、そして安全な環境の提供など、多角的なアプローチを組み合わせることで、早期回復を目指すことができます。
そして、オンラインカウンセリング、特にZoomを活用した支援は、外傷的体験後のデリケートな時期に、あなたの心のケアを、より身近で継続しやすいものにしてくれるはずです。一人で抱え込まず、専門家の力を借りて、心の健康を取り戻し、安心して日常生活を送れるようになりましょう。
ご自身の状況に合わせて、どのようなサポートが最適か、専門家と一緒に考えてみませんか?