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2025-07-24 14:17:00

臨床心理士がピアカウンセリングを行う:専門性と経験の融合で拓く新たな支援の地平

近年、日本の精神保健福祉の現場で、臨床心理士の資格を持ちながらピアカウンセリングを行うという、新しい形の支援が注目されています。これは、専門的な心理援助の知識と技術を持つ臨床心理士が、自身の精神疾患の経験を活かし、当事者として「ピア」の視点から支援を行う取り組みです。

この融合は、従来の支援の枠を超え、より深く、より効果的に、そしてより人間らしい心のサポートを提供できる可能性を秘めています。

1. なぜ、この取り組みが重要なのか?

臨床心理士がピアカウンセリングを行うことには、複数の重要な意義があります。

  • 専門性と当事者性の相乗効果:
    • 深い共感と信頼の構築相談者は、「この人は自分の苦しみを本当に理解してくれる」という深い安心感と信頼を抱きやすくなります。単なる知識だけでなく、当事者としての「わかる」という共感が、心の壁を低くし、より本音を打ち明けやすい関係性を築きます。
    • 希望と回復のロールモデル精神疾患を乗り越え、専門職として活躍しているピアカウンセラーは、相談者にとって具体的な「回復のロールモデル」となります。「自分もこの人のようになれるかもしれない」という希望は、回復への大きな原動力となります。
    • 理論と経験の橋渡し臨床心理士としての理論的な知識と、精神疾患を持つ当事者としてのリアルな経験を結びつけることで、抽象的な心理学の概念を、より実践的で身近なものとして相談者に伝えることができます。
  • 支援の質向上と個別化:
    • 多角的な視点からのアセスメント専門的な心理査定能力と当事者としての経験的理解を組み合わせることで、相談者の抱える問題やニーズをより多角的に、深くアセスメント(評価)できます。
    • テーラーメイドの支援計画個々の相談者の状況に合わせて、専門的な心理療法とピアならではの経験談や生活上の工夫などを、柔軟に組み合わせた支援計画を立てることが可能です。例えば、認知行動療法の知識を、自身の具体的な症状克服経験を交えながら伝えるなど、より実践的なアドバイスができます。
    • 危機対応能力の強化自殺念慮や自傷行為などのリスクが高い場合、臨床心理士としての危機介入スキルと、当事者としての心の痛みの理解が相まって、より適切で迅速な対応が期待できます。
  • 精神保健福祉システムへの貢献:
    • スティグマの軽減専門家でありながら当事者でもあるという存在は、精神疾患に対する社会的な**スティグマ(偏見)**を軽減する上で非常に大きな影響力を持っています。公に自身の経験を語ることで、精神疾患が特別なものではないという理解を社会に広めることができます。
    • システム改善への提言支援を受ける側の視点と、支援を提供する側の専門的な視点の両方を持つことで、現在の精神保健福祉サービスや制度の課題を具体的に把握し、より当事者目線に立った改善策を提言する重要な役割を担います。
    • ピアサポート全体の底上げ自身の専門性を活かして、他のピアカウンセラーの育成や、ピアサポートプログラムの質の向上、効果のエビデンス構築など、ピアサポート分野全体の発展に貢献することも期待されます。

2. 取り組みにおける課題と乗り越えるべき壁

この画期的な取り組みには、その実現と普及に向けたいくつかの課題も存在します。

  • カミングアウトのハードル精神疾患の経験を公にすることは、依然として社会的な偏見やスティグマに直面するリスクが伴います。自身の経験を「カミングアウト」するか否かは、個人の非常にデリケートな選択であり、その判断には大きな葛藤が伴います。
  • 境界線の設定と自己ケア相談者との共感が深まるあまり、自身の経験と混同してしまったり、過度に感情移入してしまったりする「境界線の曖昧さ」は常に課題となります。また、相談者の苦しみに寄り添う中で、ピアカウンセラー自身の精神的な負担が増大する「共感疲労」のリスクも高まります。適切なスーパービジョン(指導・助言)と自己ケアが不可欠です。
  • 専門職としての倫理と当事者性の両立臨床心理士には厳格な倫理規定があります。自身の経験を語ることと、専門家として客観性を保つことのバランスをどのように取るか、といった倫理的なジレンマに直面することもあります。
  • 制度的な位置づけと評価現在の日本の精神保健福祉システムにおいて、臨床心理士がピアカウンセラーとして活動することへの明確な制度的評価や報酬体系はまだ十分ではありません。この新しい役割の価値を社会に認知させ、持続可能なシステムを構築していく必要があります。

3. 今後の展望:希望を灯す新たな支援の光

臨床心理士の資格を持ちながらピアカウンセリングを行うという取り組みは、日本の精神保健福祉分野において、まさに**「希望を灯す新たな光」**となりつつあります。

当事者の声と専門知識が融合することで、より人間中心で、個別化された、そして回復志向の支援が実現します。この動きが広がることで、精神疾患を抱える人々が孤立することなく、安心して質の高いサポートを受けられる社会、そして誰もが自分らしく生きられる社会の実現に、大きく貢献していくことが期待されます。

このような取り組みに関心のある方は、関連するNPO法人や支援団体、学会などの情報を調べてみることをお勧めします。

 

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