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2025-07-17 16:16:00

双極性障害と共に生きる

「ある時は気分が高揚して何でもできる気がするのに、次の瞬間には何も手につかないほど落ち込む

もしあなたが、そんな極端な気分の波に悩まされているなら、それは**双極性障害(そうきょくせいしょうがい)**かもしれません。かつて「躁うつ病」と呼ばれたこの病気は、気分が異常に高揚する「躁状態」と、気分がひどく落ち込む「うつ状態」を繰り返す心の病です。単なる「気分屋」とは異なり、この気分の波は日常生活に甚大な影響を及ぼし、仕事や人間関係、金銭問題など、様々な困難を引き起こすことがあります。

今回は、双極性障害がどのように発病し、どのようにして安定した状態へと向かっていくのか、その道のりを見ていきましょう。

1. 発病・急性期:ジェットコースターのような気分の波

双極性障害の発病は、多くの場合、まず「うつ状態」から始まるため、当初は「うつ病」と診断されることも少なくありません。しかし、その後に「躁状態」を経験することで、双極性障害であることが明らかになります。

躁状態のサイン

躁状態では、気分が異常に高揚し、自信過剰になったり、眠らなくても平気になったり、おしゃべりになったりします。次々とアイデアが浮かび、何でもできるような万能感を抱くことも。時には、周囲が驚くような高額な買い物をしてしまったり、無謀な計画を立てて借金を抱えたり、激しい言動で人間関係に亀裂が入ったりすることもあります。この時、ご本人は「最高の気分」「絶好調」と感じていることが多く、病気であるという自覚がないため、周囲が困惑してもなかなか治療を受け入れようとしません。

うつ状態のサイン

躁状態とは対照的に、うつ状態では、気分が重苦しく沈み込み、何をしても楽しくない、やる気が起きない、身体がだるい、食欲がない、眠れない(または眠りすぎる)、といった症状が現れます。自分を責めたり、死にたいと考えたりすることもあります。躁状態での行動を後悔し、ひどく落ち込むことも少なくありません。

躁とうつを繰り返す「波」

これらの躁状態とうつ状態が繰り返され、それぞれの期間は数週間から数ヶ月続くことが一般的です。躁とうつが短い期間で交互に現れるラピッドサイクラーと呼ばれるタイプや、躁とうつが同時に現れる混合状態もあります。この激しい気分の波は、仕事や学業、人間関係、家庭生活に大きな支障をきたし、ご本人とご家族を疲弊させます。

早期発見と受診の重要性

双極性障害は、放置すると気分の波が頻繁になったり、悪化したりする傾向があります。特に躁状態ではご本人に病識がないことが多いため、ご家族や周囲の人が異常に気づき、医療機関への受診を強く促すことが非常に重要です。専門医の診察を受け、適切な診断を得ることが、回復への第一歩となります。治療は主に**薬物療法(気分安定薬)**が中心となります。症状が強く、日常生活に支障がある場合は、入院が必要となることもあります。

2. 回復期:気分の安定と生活の立て直し

急性期を乗り越え、薬物療法によって気分の波が少しずつ穏やかになり始めるのが回復期です。この時期は、症状の安定を図りながら、乱れた生活を立て直し、社会生活への適応を目指す大切な段階です。

気分安定薬による効果

躁状態、うつ状態それぞれに効果がある薬を用いることもありますが、特に双極性障害の治療の中核となるのは気分安定薬です。この薬は、気分の波を小さくし、躁とうつの状態に陥ることを防ぐ効果があります。薬の効果を実感するまでには時間がかかり、また副作用に悩まされることもありますが、医師と相談しながら、ご自身に合った薬と量を調整していくことが大切です。自己判断で服薬を中断することは、再燃や再発のリスクを著しく高めるため、絶対に避けるべきです。

生活リズムの立て直し

気分の波が激しい時期は、睡眠や食事のリズムが乱れがちです。回復期には、規則正しい睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動など、健康的な生活習慣を確立することが非常に重要になります。特に睡眠リズムの安定は、気分の安定に直結するため、意識して整えることが推奨されます。

心理社会的治療の導入

薬物療法に加え、心理教育(病気について理解を深める)、認知行動療法(思考パターンを修正する)、対人関係・社会リズム療法(人間関係や日々の生活リズムを整える)などが導入されることもあります。これらの心理社会的治療は、再発予防のためのスキルを身につけ、生活の質を向上させる上で有効です。

家族の協力と理解

双極性障害は、ご家族の協力と理解が不可欠な病気です。ご家族が病気について学び、患者さんの気分の波のサインに気づき、適切な対応をすることも、回復を支える上で非常に重要です。家族会への参加なども有効なサポートとなります。

3. 維持期・安定期:気分の波と「うまく付き合う」

症状が安定し、日常生活を問題なく送れるようになるのが維持期・安定期です。この時期は、再発予防のための継続的な治療と、気分の波と「うまく付き合う」ための工夫が重要になります。

継続的な服薬と定期受診

双極性障害は、寛解(症状が落ち着いた状態)は可能ですが、完治が難しいとされる病気です。そのため、症状が安定していても、医師の指示通りに気分安定薬の服薬を継続することが、再発予防のために最も重要です。定期的に主治医を受診し、体調の変化や気になる症状がないか相談することで、早期の対応が可能になります。

気分のサインへの気づき

自分自身の気分の変化や、躁状態・うつ状態へと傾き始める前のサイン(例:眠れない日が続く、やたらと活動的になる、イライラが募る、急に気分が落ち込むなど)にいち早く気づくことが再発予防には不可欠です。気分グラフなどを活用して、日々の気分の変動を記録することも有効です。

ストレスマネジメントの実践

ストレスは気分の波を悪化させる引き金になることがあります。ストレスの元となるものから距離を置く、リラックスできる時間を作る、信頼できる人に相談するなど、自分なりのストレス対処法を実践します。無理のない範囲での社会活動や趣味も、ストレス軽減に繋がります。

社会参加と生活の質の向上

症状が安定していれば、仕事や学業、家庭生活を問題なく送ることができます。自分らしい生活を取り戻し、社会とのつながりを持つことは、心の健康を保つ上で非常に大切です。ただし、無理をせず、自分の限界を理解し、適切に休息をとることも忘れないでください。

双極性障害は、その激しい気分の波によって、人生に大きな影響を与える病気ですが、適切な治療と継続的なセルフケア、そして周囲のサポートがあれば、安定した生活を送ることが十分に可能です。どうか一人で抱え込まず、専門機関のサポートを得ながら、気分の波を乗り越え、自分らしい人生を歩んでいきましょう。

 

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